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注意事項は前前記事◆鮮やかに開く前の(1)をお読みください。
ネタバレ等の個別注意があります。要注意。




3.夏の空のような

 中庭で朝礼があり、今日の出陣予定が伝えられる。内番や料理当番は半月分くらい先に決めてある。
 その日の連帯戦は、新しく顕現した刀剣男士たち中心で行われるらしい。
同田貫正国と歌仙兼定は一日暇になった。午前を手合せと旅の話であっという間に使い切る。
「修行のことは主に話したのか?」
 同田貫正国に尋ねられて、歌仙兼定は首を横に振った。
 手合せ場を、風が通り抜けていく。その通り道に腰掛けて、二振は休憩していた。気持ちの良い、晴れた夏の日。
「今夜、話すよ。というのも、修行許可が下りるのが、今日の夕方らしいんだ。だから、それを待たなければならない」
「あぁ、そうか」
 空を見上げ、風に吹かれ。ふと、歌仙兼定が呟いた。
「僕は強くならなければ」
 悔やむでなく、焦るでなく、憧れるでもなく。ただ純粋な思いが言の葉となったような、透明な音だった。
「より、雅に。しなやかに、聡明に。強く…高くへ…」
 同田貫正国も、思ったままを言う。
「雅としなやかと聡明は十分じゃねえの?」
 歌仙兼定は若干脱力して、なんと言ったものか、と同田貫正国を見やる。
「…同田貫。…君のそういうところは、好ましい点でもあるんだが…」
「まあ、あんたが足りねえと思うなら、まだまだ伸び代あるってことだろうな」
「…では君の振る舞いについても、雅にしていけるのかな」
「俺がどうでもいいと思ってるから、そりゃ無理だ」
 なるほど、と歌仙兼定は笑った。それから、ん、と考えるふうにして、尋ねる。
「君、僕はまだまだ弱いという意味かい?」
 そういう意味だけではないだろうと分かっていて、歌仙兼定はあえて尋ねたのだった。
「弱くはねえ。俺も、あんたも。けど敵も強え。負けたら、そいつより弱かったってことだ」
 これは歌仙兼定の予想していたよりずっと長い返事だった。
「それになあ、毎日手合せしてたら俺かあんたか、どっちかが勝つだろ? 毎日毎日、まだまだ弱え自分が分かる。それを毎日超えていくわけだ。毎日、自分がどんだけ強くてどんだけ弱いか痛感して、次の手合せじゃもっと強くなってるって寸法だ!」
 同田貫正国が心底楽しそうに笑うのを、歌仙兼定は興味深そうにしている。
「君…なんというか、よりいっそう…純粋に、強さに対して貪欲になったみたいだね」
「そうか? そうかもなぁ。俺は強くなきゃなんねえからな」
 清々しかった。この夏の空のように。
 時々、この、雅からかけ離れているはずの刀が、とても輝いて見えるのだ。


____________


4.鮮やかに開く前の

 そうだそうだと、同田貫正国は食堂ではなく広間へ、歌仙兼定を連れてゆく。ちょっと付き合えよ、と。理由を説明されずとも仕方なく付いて行くくらいのことは、簡単に出来る仲だ。
 そして伊達の刀と、小夜左文字と、歌仙兼定と、同田貫正国とで、鯛尽くしのご馳走とそれを囲む料理が並ぶ机を囲んだ。

 ――なんだこの状況は。

 歌仙兼定が目を上げると、同じく、訳がわからないといった表情の大倶利伽羅がいた。この場でこの表情をしているのは二振だけのようだ。
 燭台切光忠、鶴丸国永、太鼓鐘貞宗、小夜左文字が首謀者のようだ。同田貫正国は、どうやらなんとなく一緒に楽しんでいるだけだ。
 食べて、と、今日はなんとなく表情が明るい小夜左文字に言われてしまえば、食べないわけにいかない。いや食べたくないわけではない。むしろ素晴らしいご馳走だ。
 ただ、多い。
「これも。これも食べて」
 小夜左文字が小さな体で腕を伸ばして取ってくれようとするので、仕方なく歌仙兼定は自分でそれを取る。
「これかい?」
「うん」
「これもだろ?」
 鶴丸国永が悪ノリする。
「じゃあこれもだな」
 同田貫正国まで便乗する。
「君たち…」
 歌仙兼定が言う前に、小夜左文字が頷いたので、食べるしかなくなった。
 歌仙兼定は諦めて、ふ、と小さく息をついて笑う。
「せっかくのご馳走なんだから、君たちも食べたまえよ?」
 そりゃもちろん、と鶴丸国永。おう、と返した同田貫正国は既に、他人の皿と自分の皿に盛っていた。歌仙兼定がこれが美味しかったよ、と、小夜左文字に料理を取ってやれば、ありがとう、と、どことなく嬉しそうに皿を受け取った。
 向かい側では、太鼓鐘貞宗と燭台切光忠に挟まれて、大倶利伽羅が同じような状況に陥っていた。
 大倶利伽羅は、柔らかい表情も、笑顔も、出来るのだ。歌仙兼定はそれを遠くからしか見たことがないが、知ってはいた。
この喧嘩は、本当は喧嘩というほどでもない、ただ人見知りと無愛想がすれ違っただけなのだろう。
 ぱちりと目が合った。
 ――困ったものだ。気を遣わせすぎている。不毛な喧嘩は、そろそろ止め時だろう。
 視線はお互いにすっと逸れたが、それは険悪なものではなかった。

 午後。
 突然の出陣命令が下った。こういうことは、そこそこある。敵は待ってくれないのだから。
 戦装束に身を包んだはいいが、腹が重たい。機動力の低下が心配されるほどに。
 出陣先、大倶利伽羅に、動けるか、と問えば、たぶん、と自信のない返答。
「食べ過ぎた…」
 たしかに、と歌仙兼定も頷いた。
「お小夜がしきりに食え食えというから。まったく…」
「雅じゃない」
 不意に大倶利伽羅に言葉を先取りされて、歌仙兼定は思わず笑った。
「…東北の田舎刀め」
「好きにわめいていろ」
 棘の無いやりとりの後、大倶利伽羅は笑いこそしなかったが、歌仙兼定へ、行くぞ、と声をかけて駆け出した。



 無愛想な奴と酒を酌み交わせば、どこか似ていると薄々感じた。
 これでゆっくり修行先の景色を楽しめるんじゃねえの、と同田貫正国に言われた。返す言葉もない。

 
 この本丸の中でさえ学ぶことは多かったのだ。
人の身を得て、様々な刀剣と接し、戦ってきた経験をもって、修行へ出たら、この眼は何を映すだろう。この心に何が芽生えるだろう。”刀”の頃に気がつかなかった趣深かさや、人間の強さ優しさ、美しさを捉えることが出来るだろうか。
 修行先は予想出来る。恐らく、間違いない。そこに行けるのならば、得るものは必ずあると確信出来る。
 同田貫正国が強くあらねばならないと言うのと同じように、雅で、風流で、それでいて強くあらねばならない。
 輝きを増した刃は、主の力となろう。

「ねえきみ。僕の話を聞いてくれないか」



◆おわり。

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