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つづきです。

注意書きは前記事参照でよろしくお願いします。


しっかし、書く度に文字数が増えていくこの現象、何か名称あります???
次は兼さんギャグめなのやりたいので文字数減るはず…。


「同田貫さーん!」
 前田藤四郎に教わって畑仕事を始めたばかりの同田貫正国に、五虎退の元気な声がかかった。
「あ? なんだ?」
 エプロンをつけたまま駆けてきた五虎退は、同田貫正国のもとへやってくると、大事な使命を果たすような眼差しで尋ねた。
「お肉とお魚、どっちが食べたいですか!?」
「は?」
 訳が分からず聞き返すと、五虎退は慌てて説明し始める。
「あ、あの。同田貫さんが、畑仕事頑張っているので、歌仙さんが、ご飯は同田貫さんの好きな方にしようって。まだ味の好みとか、分からないと思うので、気になる方でいいって」
「別に、食えればなんでもいいけどなぁ」
 同田貫正国の本心だった。いつもなら怯んでしまう五虎退だが、今回は使命感に燃えていた。
「ど、どちらかといえばでいいんです! 他の物でも、多分大丈夫です!」
「…って言われてもなぁ」
 同田貫正国も困って後ろ頭を掻いた。この短刀の求める返事をしてやりたいところだが、本当にどちらでもいいのだから答えようがない。適当に答えるか、と思ったところに、前田藤四郎の声がかかった。少し離れたところで作業をしていたが、手を止めて会話を聞いていたのだ。
「昨日食べたのはお魚でしたね。どうでした? 同田貫さん」
「あー、まあ、うまかったな」
「歌仙さんのことですから、連日同じものは作らないと思います。昨日とは違った魚の料理か、新たに肉料理を食べてみるか…同田貫さん、どちらがいいでしょう?」
 前田藤四郎のフォローに五虎退はきらきらした視線を送った。前田藤四郎はにっこり頷く。
 一番困っているのは同田貫正国だ。しかし悩んでもどうしようもないことだと、やはり適当な返事をすることにする。

「じゃあ肉」
「お肉ですね! 分かりました! 歌仙さんにお伝えしますね! あの、畑仕事、がんばってください!」
「おう」
 五虎退は来たときと同じく、いや、来た時よりも軽やかに、厨へ駆け戻っていった。



 豚の角煮。白髪ねぎをちょんっと乗せて。おまけに作った味玉子も固すぎず軟らかすぎず。これを不味いとは言わせない。いや、美味いと言わせてやる。
「歌仙さん、歌仙さんっ。こ、こわいお顔になってますよ!」
「はっ」
 盛り付け終わり、あとは運ぶだけ。お盆に乗せて、いざ、出陣――…そこで五虎退に指摘された。
「あ、ああ。すまない、五虎退。ふう…」
 ああやっぱり、と五虎退は目を丸くして確信した。歌仙兼定は、人見知りだ。これまで、審神者と、歌仙兼定と、前田藤四郎、そして五虎退しかいなかったこの本丸。同田貫正国は、これまでの一人と四振とは性格が随分違う印象だ。
 それでも歌仙兼定は、どうにか仲良くなろうとしているのだ。反射的に作ってしまう”壁”を超えて。
「だ、大丈夫です!」
 五虎退だからこそ、今、力強く言うことができた。
「大丈夫です。あの、僕は、すぐ弱気になってしまうんです、けど、でも歌仙さんも前田も、同田貫さんも、みんな優しくて、僕が怖がっているようなことは、いつも、起こらないんです。だから、歌仙さんも、大丈夫です!」
 少し驚いたように歌仙兼定は五虎退を見詰めた。五虎退は今更赤面して俯く。
「す、すみません…うまく、言えなくて…でも…」
「いや。ありがとう、五虎退」
 どこか清々しい声だった。見上げれば、歌仙兼定はふわりと微笑んだ。いつもの歌仙兼定だと、五虎退はほっとする。
「ありがとう。きっと大丈夫だ。なにしろ、この僕が腕によりをかけて作ったんだからね!」
 得意気にした歌仙兼定に、五虎退は笑った。
「はい!」
「さあ、お疲れの二人を、美味しいご飯で迎えようか」



 本丸内のそれは家というより館だ。まだ寒い時期。つい先日、厨に近い部屋へ設置したコタツが、最近の食卓となっている。
いい匂いがしていた。
 ――ぐう。
 不意に聞こえた音に、同田貫正国は自分の腹を見下ろす。
「お腹がすくと、たまにそうやって鳴るんですよ」
 前田藤四郎が真面目にそう教えてくれる。
「へえ」
「畑仕事、頑張りましたからね。ご飯が楽しみですね!」
 ああ、とあまり気のない返事をした同田貫正国。食えりゃなんでもいいけどなあ、という言葉は、なんとなく思うだけに留めた。
「只今戻りました!」
 前田藤四郎が声をかけて、”食堂”の襖を開ける。ふわあっといい香りが広がった。
「あ、おかえりなさい!」
 五虎退の屈託のない笑顔。傍で、彼と共に顕現した五匹の小虎。先に食事は済ませたのだろう、二匹は寝ているし、三匹はまったりとじゃれあっている。
「おかえり。お疲れ様」
 歌仙兼定の柔らかな態度を、同田貫正国は少し意外に感じた。腹の立たない、いい笑顔だ。
「ちゃんと手を洗ってきたかい?」
「はい! とってもいい香りですね」
「ふふ。美味しく出来ていると思うよ」
 前田藤四郎が喜々として席に着いた。同田貫正国も――不慣れ故――マイペースにコタツに入る。
 いただきます、と元気よく短刀たちが、上品に一振目の打刀が、それに倣って四振目の打刀が。
 箸は、当然使ったことなどないのだが、これまでの永い時の中で人間たちを見てきたためか、歩き方と同じように自然と使うことが出来た。人の身を得たときに習わずとも心臓が動き呼吸が出来るのと同じなのだろうか。しかし歩き方や動き方は、皆それぞれに癖があるようだ。
 味覚にも個性があるのだろうか。
 とにもかくにも、短刀たちは料理に感動して幸せそうに食べているし、作った歌仙兼定自身も、満足そうだ。
「ん」
 ほろほろっと、柔らかく煮込まれた甘辛い肉に、同田貫正国は思わず声を出していた。驚いてなのか、どうしてなのか、自らの体に疑問を覚える。
 もう一口食べてみて、理解した。
「うめえな」
 そういうことだ。
 ぱくぱく食べていると、ふと視線に気がついた。歌仙兼定は目が合うとぱっと逸らして、微かに口元をほころばせる。
「ああ、いや。口に合ったようで、良かったよ」
 同田貫正国には、何故かわからないが、ともかく歌仙兼定が緊張しているように感じられた。どうしてやることも出来ないので、おう、とただ素っ気なく返事をしておく。
 箸を伸ばしてふと、豚の角煮を食べきってしまったことに気がついた。なあ、と同田貫正国は歌仙兼定に尋ねる。
「これ、まだあんのか?」
 歌仙兼定は目を丸くした。
「あるよ。おかわりがいるかい?」
「おう、頼むわ」
 すると歌仙兼定は柔らかな満面の笑みで、空になった器を手に取った。あの”腹の立ついい笑顔”とはえらい違いだ。
「美味しそうに食べてもらえると、僕も作り甲斐があるよ。少し待っていてくれ」
 歌仙兼定が立った後に、前田藤四郎と五虎退はちらりと顔を見合わせて笑い合った。
 その二人に同田貫正国は尋ねる。
「あいつ…歌仙て、いつもはああいう感じ? なんかさっきまでと違うっつうか…」
「ああいう感じですよ!」
「ああいう感じです! ちょっと緊張してただけですよ」
 五虎退と前田藤四郎はにこにこと嬉しそうだ。
「ふうん、そういうもんか」
 なにを緊張することがあったのか同田貫正国には理解出来なかったが、どうせ理解できないのでそういうものだと思っておくことにした。

 厨と”食堂”の往復の最中、歌仙兼定が何回声を出して微笑んだのか、誰も知る由はない。
 この日以来、月末に歌仙兼定が厨の番になると、「今日は豚の角煮だね」と、前田藤四郎と五虎退は笑い合った。

 最初の冬の、ある月末のことだった。


(おわり)

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