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つづきです。

◆亥の方の番人(2)
(これでおわりです。)



 外からは、見えない。主との絆があれば、出入りは自由。結界を認知されてしまえば、歩いて入ってこられる。結界外からの遠戦は結界が防ぐ。
 投石兵4、弓兵2、銃兵1、それと陸奥守吉行の拳銃と、大典太光世の鍬。本体の刀以外の武器がこれらだ。不動行光が銃兵を前田藤四郎へ、岩融が重歩兵を大典太光世へあげた。大典太光世は鍬を鶴丸国永に渡した。
 それぞれ構える。そして前田藤四郎の合図、それを受けて鶴丸国永が掲げた鍬を振り下ろした。
 投石兵、弓兵、銃兵の攻撃に加えて、刀剣男士が全力投球した石や枝も降り注ぐ。出入り可能な場所はそこかと、敵が瞳を燃やしてやってくるのは思うツボで、結びつけてあった丸太を三本ほど転がしてやる。敵脇差が巻き込まれた。飛んで来た敵短刀は、待ってましたと無垢な振り子丸太の凶悪な戯れに遭い、回避したところで不動行光と後藤藤四郎の刀の餌食になった。一振、偵察の失敗を悟って撤退しようとする短刀に、陸奥守吉行の撃った弾丸がめり込んだ。勢いに乗った振り子のひとつが浦島虎徹と岩融を宙に舞わせ、虎徹の脇差が掛け声とともに敵短刀を破壊した。薙刀は重力によって振り切れた打撃力と機動力をもって地上の槍に迫った。その敵槍は、降ってくる大男を迎え撃つことなどできない。前田藤四郎が鋭い枝で目潰しを見舞い、歌仙兼定と大典太光世が力づくで槍を押さえていた。
 薙刀が力強く敵槍を縦一閃した。終わりだ。
 敵槍が倒れ、顕現がざあっと解けてゆく。その前で仁王立ちになった岩融が豪快に笑った。
「がっはっはっは! 狩り尽くしたやったぞ!」
 その傍らで、降りてきた鶴丸国永は最後の脇差に鍬でトドメを刺した。そして鍬をまじまじと眺める。
「格好はつかないが、こいつもなかなか強いなぁ」
「主殿に頼んで顕現させてもらうか?」
 岩融の冗談に、いいねえ、と鶴丸国永。
「そうしたら畑仕事はこいつに任せっきりにしようぜ」
 おおい、と断層の上から陸奥守吉行の呆れた声がかかる。
「勢いに任せてみーんな降りよって! わしが残らんかったらどうするつもりやったがか」
 ありがとう陸奥守、と歌仙兼定が笑えば、それに続いて皆が、すまんなあ、ありがとう、世話になる、などと口々に言って笑って誤魔化した。陸奥守吉行は後ろ頭をわしゃわしゃ掻いて、小さく笑った。
「仕方ないのう…。しゃんしゃんもんて来ぃや!」
 等間隔に結び目が作ってあるロープが投げられた。短刀、脇差が、ひょいひょいとそれを登っていく。岩融はそれを横で見ている。万が一――ロープが岩融を支えきれなかった場合――を考えて、最後に登るつもりだろう。
 大典太光世はあらぬ方向を見ていた。気がついた鶴丸国永が何気なく視線の先を見るが、何もない。
「なにかあったのかい?」
 歌仙兼定が2振に声をかける。大典太光世は、いや、と言って、見ていたなにかから視線を外した。ちらりと視線の先を確認した歌仙兼定が尋ねた。
「…そういえば、猪についていったと聞いたけれど」
「…ああ」
 ややあって、大典太光世は思い出したように俯いた。
「すまなかった。…手間を取らせた」
「そうだね。だけどまずは、君が無事で何よりだ。帰ろう」
 歌仙兼定は微笑むと、先にロープを登っていった。
「なあ」
 それを見ながら鶴丸国永は、大典太光世に問いかける。
「ありゃ、この山の主だったのかい?」
 大典太光世は、冗談か本気か分からないが、真顔で応えた。
「ああ、多分な。…敵が入り込んでここが戦場になることを避けたかったんだろう」
「そうか。殲滅できて良かったぜ」
 そうだったほうが面白いし、本当にそんな気がしたので、鶴丸国永は信じることにした。

 全員が登りきるなり、大典太光世は、すまなかった、と暗くなって皆に謝った。
「大典太さん、僕たちに一声かけて下されば良かったのに」
 前田藤四郎が言うと、大典太光世は気まずそうに視線を逸らした。
「いや…すまん…その、つい…」
 俯いて両手で顔を覆うと、くぐもった声で懺悔した。
「…つい……嬉しくて……」
 猪が自分を怖がらずにやって来たことが。
 はあ、と沈んだため息をついた大典太を、誰も責める気が起きず、むしろ微笑ましくて困った。
「大典太さん」
 前田藤四郎も、仕方ない、と笑ったあと、きりっと表情を作り直した。すると大典太が少し手を下げて目をのぞかせた。それを見つめて前田藤四郎が言う。
「いいですか、知らない人や刀剣や、動物にも、ひとりでついて行ってはいけませんよ! 誰かに声をかけてください。
 大典太さんは、ひとりじゃないんです。僕たちがついているんですからね」
 分かった、とまた項垂れる大典太光世を、どうしてそれ以上叱る必要があるだろう。
 帰ろう帰ろうと、誰からともなく言って歩き出す。
 俺も猪見たかったなと浦島虎徹が言えば、危ないからやめちょけと陸奥守吉行、君に何かあったら兄君たちに折られてしまうよと歌仙兼定が苦笑する。ちゃっかりエノキタケを見つけて不動行光が持ってくれば、後藤藤四郎が俺も俺もときょろきょろし、岩融が夕飯の献立を尋ねた。
「今日は、鰤大根だよ。エノキは、お味噌汁に入れようか。燭台切が当番だから、言ってみるよ」
 あ、と後藤藤四郎が声を上げる。何事かと思えば目を輝かせて皆に知らせた。
「今日の厨当番ってたしか燭台切、薬研、同田貫、堀川、秋田だろ!? なんかすげー布陣の日、今日だったよな!?」
「なんだ、食卓精鋭部隊じゃないか。ここに歌仙や伽羅坊が入っていたら完璧なんだが」
 鶴丸国永が歌仙兼定に視線を送ると、食卓精鋭部隊の打刀が微笑んだ。
「だから僕は今日畑当番で、鰤を買ってくるのは大倶利伽羅なんだよ。厨当番への加勢がしやすいようにね」
 歓声が上がった。

 鶴丸国永は鍬を放り出して、喜々としてエノキタケを厨に届けに行った。前田藤四郎は主に報告へ行く。
 歌仙兼定と大典太光世が畑に戻れば、小烏丸が大根の収穫を済ませていた。
「おお、戻ったか」
 嬉しそうに笑うとまず大典太光世の前に立ち、彼の二の腕をぽんぽんと叩いた。
「無事で何より。さあ、畑仕事を済ませてしまおうか」
 一切責める言葉がないことに、逆に心苦しく思ったのだろう、大典太光世は表情を暗くした。
「心配をかけて、すまなかった…」
 ふふ、と小烏丸は笑う。何もかもを許す笑みだった。
「なに、心配するのも、この父の役目よ。もう存分に怒られてきたのだろう? のう、この冒険で得るものはあったか?」
 大典太光世は、ごく僅かに、微笑んだ。
 うむ、と小烏丸は満足気に頷いた。
 それから、歌仙兼定に、大根はこれで良いか、足りるか、と尋ねる。
 自らを父と言う、刀の祖の付喪神に、歌仙兼定は柔らかく頷いた。
「ありがとう、充分ですよ、”父上”」
「うむ、そうか、そうか。それは良かった」
 もうすぐ日が傾き始める。
 本日の波乱の畑当番、仕事終わりまで、あと少し。

 

「鶴丸」
 後日、芋を数本抱えた大典太光世が、告げた。
「亥の方の山へ行ってくる。すぐに戻る」
 鶴丸国永は、思わず笑みを浮かべた。
「俺も行っていいかい?」
 大典太光世は、ふっと笑った
「あんたが内番じゃない日にな」
 ちぇっ、と、鶴丸国永は笑った。


◆おわり。今日も本丸は平和でした。

(戦闘は、歌仙(極)40、前田(極)38、不動(極)37、鶴丸98、浦島98、陸奥98、岩融92、後藤91、大典太80でお送りしました。
大典太光世62振目。小烏丸64振目。)

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