忍者ブログ
拍手のお返事もこちら(カテゴリー:お返事)。創作関連を見たい場合はカテゴリーを選択して頂くと見やすいと思います。 「原作無関係二次創作」「小話(暫定)」については固定記事(緑文字で書いてある一番上の記事)をご参照ください。
[968]  [967]  [966]  [965]  [964]  [963]  [962]  [961]  [960]  [959]  [958
つづきです。




 驚きが冷めないうちに、最初の廊下の角を曲がれば、山姥切長義、毛利藤四郎、小竜景光、小烏丸、日本号、大典太光世が待っていた。廊下にはフラッグのガーランド、それに…明らかに大典太光世の作だが、素人から見れば非常に複雑で多種多様な、折り紙の花がぽんぽんと壁に咲いていた。
 毛利藤四郎が歌仙兼定を見上げた。
「おかえりなさい、歌仙さん! 就任一周年、お疲れ様でした。これからもよろしくお願いしますね!」
 日本号がおう、と歌仙兼定を軽く小突いた。
「たまには俺の酒の席に付き合えよ」
 山姥切長義はさらりと。
「まあ、一年間勤めてきたことは、認めるべきかな」
「ま、そういうこと。これからもよろしく、歌仙」
 小竜景光が飄々と言って微笑んだ。
「俺は迷惑をかけてばかりだが…役立てるよう、努力する」
 大典太光世をぽんぽんと小烏丸が元気づけて、そして真っ直ぐに歌仙兼定に笑いかけた。
「時を経ても、大切なものを忘れずにな。これからもこの父を頼りにしてよいぞ」
 廊下のフラッグには、歌仙兼定 就任一周年 祝 と一文字ずつ別々の字体で書かれており、最後の一枚に、これからもよろしくお願いします、とあった。


 中庭が見える廊下へ出ると、数珠丸恒次、ソハヤノツルキ、信濃藤四郎、大包平、物吉貞宗、巴形薙刀が待っていた。太鼓が、置いてある。
「ようやく来たか! 待ちくたびれたぞ!」
 大包平が大声で言う横で信濃藤四郎がいやいやと首を振った。
「準備ギリギリでしたから」
「間に合って良かったです!」
 物吉貞宗が微笑む。
 数珠丸恒次が進み出ると、一度だけ、にこり、と穏やかな笑みを浮かべた。すうっ、と空気を吸うと――破邪顕正! と叫ぶかと思われたが違った――数珠丸恒次が声を張った。
「歌仙兼定と、我らが本丸、そして我らが主の、活躍を祈り!」
 ソーレっ! と信濃藤四郎、物吉貞宗。ドン、ドン、と厚い太鼓の音は、大包平とソハヤノツルキ。むんっ、と気合を入れて巴形薙刀が、寝かせてあった長い長い棒を起こせば――旗だ。
 文字が書いてある――蝶ノ…獅子…繚乱ス…。
「蝶ノ如ク舞イ!」 
「獅子ノ如ク気高シ!」
「刃閃キ繚乱ス!」
 信濃藤四郎が、物吉貞宗が、数珠丸恒次が、読み上げる。
「名刀・歌仙兼定! 主が刀!」
「日々、輝きを増し!」
「存分に戦場に舞い、咲き誇らんことを!」
 ソハヤノツルキ、巴形薙刀、そして大包平が一段と声を張り上げた。ぶわりと往っては返る旗。力強く響く太鼓。ドン、と揃って大きく響き、本丸に余韻が消えてゆく。
 数珠丸恒次がにこりと、穏やかに、歌仙兼定に告げた。
「一年間のお勤め、ご苦労様でした。これからも共に励みましょう」

 そうして同田貫正国に先導され、ほとんどずっと呆然としながら、ありがとうをひとつひとつ返しながら、本丸を一周することとなった。

 亀甲貞宗、包丁藤四郎、三日月宗近、鶯丸、太鼓鐘貞宗、浦島虎徹は、中庭付近の部屋を風船でいっぱいにして待ち構えたいた。
「みんなが集える暖かい場所を作ってくれて、ありがとう。そろそろ、少し深い話もしてみたいな…ふふ」
「いつもありがとう歌仙! また遊びに行くから、お茶菓子頂戴!」
「一年間、ご苦労だった。頼りにしているぞ、歌仙」
「たまには、縁側に茶を飲みに来い」
「これからもよろしくな、歌仙! 思いっきり派手にいこうぜ! 」
「歌仙さん! これからも、よろしくお願いしまっす!」

 長曽祢虎徹、南泉一文字、千子村正、明石国行、後藤藤四郎、博多藤四郎は中庭の反対側でひっそりと待ち構えていた。ひゅんひゅん動き回るねずみ花火、置いて火をつける噴水のような花火に、若干翻弄されながら声をかけてくれる。
「歌仙! この一年色々と世話をかけたな。ありがとう。力になれることがあれば何でも言ってくれ!」
「にゃ…おめでとにゃん! にゃ…う、ぐ、花火…追いかけたい‥にゃ…にゃ…」
「歌仙! 今日はアナタと主の為に、脱ぎマスよ!」
 脱ぐな、と蜻蛉切不在のため長曽祢虎徹が急いで止めにかかった。
「お疲れさん。ま、ほどほどに、肩の力抜いていきましょ」
「これからもよろしくな、歌仙!」
「いつもありがとう! 商売のほうは、任せときんしゃい!」

 不動行光、厚藤四郎、髭切、江雪左文字、小狐丸、鶴丸国永、膝丸は――江雪左文字、次いで髭切がのんびりとズレつつ――歌仙、いつもありがとう! と声を揃えた。
「来たばかりの頃は、色々…ごめんよ。これからしっかり主のために働くからね!」
「あんまり悩みすぎんなよな、歌仙! これからもよろしく!」
「弟共々、これからも、よろしくね」
「戦いは…嫌いですが…この場所は、嫌いではありません…」
「主様のため、共に役目を果たしましょう」
「これからもたくさんの驚きをもたらすぜ!」
「兄者と共に務めを果たそう。これからもよろしく頼む」
 
 平野藤四郎、蜻蛉切、岩融、蛍丸、一期一振、御手杵は、きっちりと戦装束で出迎えた。
「歌仙さん、これからも、よろしくお願い致します!」
「歌仙殿。この一年、立派に責務を果たされましたな。今後も主のため、戦い抜きましょう」
「戦は続いている。歌仙よ、狩って狩って、敵を狩り尽くしてやろうぞ!」
「へへ、歌仙、これからもよろしくね」
「歌仙、私はもちろん、弟たちも世話になっている。いつもありがとう。これからも、共に頑張ろう」
「いつも美味い飯ありがとうな。俺は刺すしか能がないけど、なんか、力になれることがあれば言ってくれよな」

 太郎太刀、次郎太刀、燭台切光忠、石切丸、大倶利伽羅、獅子王は、黙ってそこに立っているだけで圧巻だった。
「一年間、ご苦労様です。これからもどうぞ、よろしくお願いします」
「いつも美味しいおつまみありがと! また一緒に飲もうねえ! 何でも話しにおいでね」
「戦場でも厨でも、たくさん話したね。歌仙くん、これからもよろしく! 新しいレシピにも挑戦しようよ」
「お疲れ様。君がいてくれるから、私も皆も安心していられる。だけど、あまり無理をしないようにね」
「…まあ、たまになら…飲みに来ればいい…」
「お疲れさん! 歌仙、これからもよろしくな!」

 へし切長谷部、鯰尾藤四郎、加州清光、骨喰藤四郎、山姥切国広、蜂須賀虎徹が、それぞれ2輪ずつ持った造花は、12の月の、それぞれの花。
「主命だからな。お前の好きそうなことを考えてやったぞ」
「一年分の楽しかった思い出。これから、二年、三年と増えていったらいいですよね」
「歌仙、いつもありがと。世界一可愛いのは俺だけど、世界一雅なのは、歌仙だよ」
「一年、ありがとう。…楽しかった。…ありがとう」
「世話になった。…その…あんただからこそ、主を支えて、俺たちをまとめられていると思う。あんただから、共に頑張ろうと思う。これからも、よろしくな」
「歌仙。…ありがとう」
 受け取ってゆけば、歌仙兼定の手の中で花束となった。
 去り際に、おい、と呼び止められて振り返れば、へし切長谷部が言う。
「堂々としていろ。お前は、俺の次くらいに主のことを考えているし、誰よりも皆のことを考えている」

 花束を持ったまま行く。突如、にっかり青江と今剣が、ばあ! と天井裏から現れた。すぐそこの曲がり角と部屋からは、陸奥守吉行、大和守安定、鳴狐が飛び出し、障子をスパンと開く。
「歌仙さん! いちねんかん、おつかれさまです! これからも、よろしくおねがいしますね!」
「君との付き合いももう一年か。ゴールインするまで、着実に、楽しくやろうじゃないか…戦のことだよ?」
「歌仙! 今年もうんっと楽しい年にしようにゃあ!」
「一年間、お疲れ様! 僕も、頑張るよ。これからもよろしく」
「歌仙殿、一年間のお勤め、お疲れ様です! 今後とも鳴狐とわたくしめを、よろしくお願い致します!」
「…よろしく」

 遠征や出陣の集合場所となっている広場に、歌仙兼定と同田貫正国が来ると、最初の13振が揃った。
 おかえりなさい、と11振がそれぞれに言えば広い空間が心地よく音に満ちた。
 宗三左文字が飄々とした口調で、しかし優しい眼差しで微笑んだ。
「力押しでと言いつつ細かいことを察しますよねえ貴方。助かっていますよ、ありがとうございます」
 山伏国広はいつもの力強い頼もしさで。
「培ってきたものは、裏切らぬ。筋肉も観察力も、絆も。歌仙殿のそのお力で、拙僧も皆も助けられておる。ありがとう」
 和泉守兼定少し気恥ずかしそうにしたが、すぐに強気な笑みを浮かべた。
「色々と世話になった。まあ、ちょっと小うるさいとか思ったこともあったが…ありがとうな。強く、格好よく居るから、見ててくれよ、之定」
 愛染国俊は快活に、胸を張った。
「いつもありがとうな、歌仙! 今年はいーっぱい祭しようぜ!」
 堀川国広は、歌仙兼定にだけ分かる影を一瞬滲ませて、そして心から笑った。
「この本丸に居られて、僕は幸せです。いつも気を配ってくれて、ありがとうございます!」
 乱藤四郎はぱちりとウインクした。
「美味しいお菓子、ありがとう!」
 秋田藤四郎は青空のような目を細めて柔らかく笑った。
「歌仙さんは、目が優しいです。いつもありがとうございます!」
 小夜左文字は、ちらりとだけ、たんぽぽのように暖かく微笑んだ。
「之定、僕にも、兄様たちにも、皆にも、たくさん話しかけてくれてありがとう。頑張ってくれたの、分かってるからね」
 薬研藤四郎は静かな笑みを湛えていた。
「部隊のみんなが怪我しないように考えてくれて、ありがとな」
 五虎退は屈託なく微笑んだ。
「歌仙さん、笑ってくださって、ありがとうございます」

「歌仙さん。…あの」
 前田藤四郎が進み出たが、言葉に詰まってしまった。感極まってしまったのが分かって、歌仙兼定もまた溢れそうなものを堪えた。もうそろそろ決壊してしまいそうだが、前田藤四郎がぐっ、と、堪えて顔を上げた手前、そういうわけにはいかない。
「一年前の今日、主君と、歌仙さんにお会いして、一緒に出陣して、本当にいろんなことを…楽しいことも、つらいことも、 自分の力不足を痛感することも、皆がいる暖かさや頼もしさも、…たくさんのことを経験して、たくさんのことを感じました。あっという間の、しかしとても長い、一年でした。…僕は、…この本丸に来て歌仙さんと共に戦い、過ごすことができて、本当に良かったです」
 ふふ、と歌仙兼定は笑った。腰を落として視線の高さを合わせた。
「まだ、一年だよ、前田」
 はい、と、前田藤四郎も笑う。
「歌仙さん、これからも、末永く、共に主君にお仕えしましょう! よろしくお願いします!」
「ああ、前田、頼りにしているよ。これからも、よろしく。君が来てくれて、本当に良かった」
 涙の代わりに、桜色が舞った。


 審神者の部屋の前で、同田貫正国は、歌仙兼定の胸に、どん、と拳を当てた。にっと笑う姿は、この上なく力強くて頼もしい。
 今も、これまでも、何度力を貰っただろう。
 歌仙兼定もまた拳をお返しした。同田貫正国は、ちらと満足気に笑ったのみで、立ち去ろうとしながら告げた。
「歌仙、あとで主連れて大広間に来いよ」
「分かった。大広間だね」
「おう。んじゃ、あとでな」

[newpage]

「主。今日は、君が主役だというのに」

 だから自由にやりたいことをやらせて頂きましたと、審神者は飄々と言った。
 一年前のあの日を忘れることなんてできようか。
 慣れない本丸。はじめての顕現。人見知り同士の顔合わせ。突然の出陣命令、重症で帰還する初期刀。あの日、きちんと挨拶する間もなく、慌ただしくすべてが始まったのだ。
 だから、歌仙兼定以外の全ての刀に言ってきたことを、今日。

 ようこそ。来てくださってありがとう。どうぞこれからも、よろしくお願い致します。

 こちらこそ、と、歌仙兼定は、少し声を掠れさせた。
「…君に貰った一年だ。君に貰って、皆で築いた一年」
 跪いて12の花の束を差し出して、ふうわりと歌仙兼定はほころんだ。



「同田貫に、大広間に来るよう言われたが、まだ何かあるのかな。もう十二分に、頂いてしまったのに。…君も知らないのか。…ふふ。では、行こうか、主」
 はじまりの打刀、一振。主と共に歩み行く。

 大広間には祝いの料理と、酒と、72振分の、桜吹雪。



◆おわり




(よろしければ小話もどうぞ。次の記事です)

拍手[0回]

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
MAIL
URL
コメント
PASS   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
プロフィール
HN:
風枝 在葉(かざえだ さいは)
趣味:
 ゲーム(RPGが主)フルートと戯れる
自己紹介:
(ホームページの)誕生日は、
3月31日です。
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
P R
material by:=ポカポカ色=
忍者ブログ [PR]