忍者ブログ
拍手のお返事もこちら(カテゴリー:お返事)。創作関連を見たい場合はカテゴリーを選択して頂くと見やすいと思います。 「原作無関係二次創作」「小話(暫定)」については固定記事(緑文字で書いてある一番上の記事)をご参照ください。
[967]  [966]  [965]  [964]  [963]  [962]  [961]  [960]  [959]  [958]  [957
ということで

刀剣乱舞二次創作、ほのぼの。
審神者一周年に際して書きました。約8000字+。

登場:歌仙(極)、同田貫(極)、前田(極) + 他(投稿時実装されている刀剣のうち、この3振以外:千代金丸、日向政宗、祢々切丸)、主が少し
※方言も口調も”なんちゃって”です、注意。
※キャラが掴みきれていないことがあるような気がします。
※「他」の刀剣のうち、極のもの: 今剣、秋田、乱、五虎退、薬研、愛染、宗三、小夜、和泉守、堀川、長曽祢、不動、太郎、次郎

※もっと幸せに書きたかったけど幸せでしたありがとうございます。

◆一年越しの「ようこそ」(1)



 肌寒い朝、近侍の部屋、まだ薄暗いうちに身支度を終えた。じっと正座して待っていると、やがて薄明るく、世界が目覚め始めた。
 衣擦れの音と共に、本体の打刀を握り、すっと立ち上がる。部屋の襖に手をかける寸前、歌仙、と、その襖の向こう側すぐ近くから呼びかけがあった。
 こんなに早くから主が近侍の部屋を訪れる理由に、歌仙兼定はすぐに思い至って、少々呆れつつ優しく笑った。
 襖を開けて、主に、おはよう、といつも通りの挨拶をしてから、間を開けずに指摘する。
「今日、君はただ、自室で身なりを整えて待っていてくれれば良かったんだよ、主」
 そういうわけにはいかないと、主は抗議するが、歌仙兼定もそこは譲らない。
「僕が、我が主たる君のところへ参る。一周年の挨拶は、そうあるべきだと、僕は思うけれどね。…させてくれないのかい?」
 主は笑って、自室へ引き返した。
 

 挨拶を済ませると、所謂お誕生日だから好きな茶器をひとつだけ買ってきて構わないと、普段のお小遣いよりも多い“ぼーなす”のような金額を、審神者から渡された。
「主…これは…今日のために…?」
 財布を両手で恭しく受け取って、誉桜をひとひら舞わせながら、歌仙兼定の脳裏にこれまで我慢してきた欲しかった茶器達の魅力的な誘いが殺到した。



「付き合わせてすまないね。ちょうど、君がいたものだから、つい」
「別にかまわねえよ。あんたの誕生日くらい、ゆっくりしてもバチ当たらねえだろ」
 誕生日ねえ、と、繰り返した歌仙兼定は満更でもなさそうだ。
 近侍は前田藤四郎が引き継いで、見送ってくれた。偶然そこにいた同田貫正国に気まぐれで声をかけると、ふたつ返事をされて一緒に街へ出る事になった。
 笑い声や話し声でざわめき揺れる街、歩き慣れた道はいつもより少し華やいでいるようだった。今日はまるで、世界が優しく笑っているようだ。

 服や装飾の店が目に入る。
「乱が新しいリボンを着けていたな。篭手切がもっと、ばりえーしょんを増やすのだと息巻いていた」
「まあ、乱は何つけても様になるよな」
「…」
「んだよ」
「いや、君もそういう風に思うのか、それともこだわりが無いゆえかと…」
「武器は強けりゃいい。けど別に乱や光忠を否定はしねえよ。…あんたは雅っていうか強えからな」
「”雅っていうか”? 雅っていうか、って何だい?? 聞き捨てならないね」
「あー雅、雅、誰よりも雅」
「まったく…」

 家具雑貨の店が目に入る。
「大きなクッションを、明石が欲しがっていたなあ」
「蛍と愛染の苦労が増えそうだな」
「確かに、クッションと一体化してしまいそうだ。しかし、二人も興味がありそうだったよ」
「へえ」

 店先に、外套が飾られている。
「そういえば、長義が見ていたな…」
「へえ。気分でも変えたいのかあ?」
「そうかもしれないが…自分のというより…まあ、いいか」

 変な文字プリントのTシャツがあった。
「歌仙、おい、”雅”だぜ」
「? 何…。…雅の欠片もないな…」
「これいいな、内番の時とか。…”魔王”…”この世は地獄…――」
「君、まだ折れたくないのなら、そのあたりに手を出さないほうがいいんじゃないかい」
「おう」

 食器を扱う店がある。
「あれは膝丸が喜びそうだ」
「揃いの猪口か? あいつら、持ってねえのか」
「酒自体に費やしてしまっていると聞いた」
「あぁ」

 ふと同田貫正国は、尋ねた。
「…なあ、茶器を買いに行くんだよな?」
「…」
 少々困ったように口をつぐんで、歌仙兼定は同田貫正国を見返した。
「考えていたんだが…茶器は、自分でも資金を少しずつ貯めているんだ」
「おう、そうか」
「うん。…しかし、迷惑にならないだろうか」
「なんねえだろ」
「そう、だろうか」
「主の給料も増えてるだろうが、刀剣も増えてっから、俺たちの小遣いは増えてねえ。あんたの茶器と同じだろうよ」
「そうか。…付き合ってくれるかい? 街を一周してしまうかもしれないけれど」
「いいぜ。どこから行く?」
 やはりふたつ返事。ありがとう、と歌仙兼定は微笑んだ。

 あれやこれやと話ながら街を行けばやはり、何か見るたびに誰かの笑顔が浮かぶのだった。
 一日暇を与えられていたから、2振は昼頃になると目についた食事処へ入った。外で食べることは滅多に無い。やんややんやと、ダシは何だ、具材の組み合わせだと、美味しくいただきつつ分析し合った。
「漬物だ。ぽてとさらだに、漬物入れてんだ。すげえ、合う。なあ今度やってみようぜ」
 料理について熱弁した同田貫正国を、どこかの御手杵が2度見しながら店を出て行った。歌仙兼定は妙に誇らしくなった。
 腹拵えを済ませて再び通りへ出る。
 午前中に色々と見て回ったが、全員に別々の何かを贈るのは、予算も公平さも難点だった。
「だけどあれは是非、受け取って欲しいんだ」
「んじゃ、そういうのだけは買って、あとはとりあえず止めるか?」
「そうだねえ…うーん…」
 出来ればみんなに、贈りたかった。悩みながらふたりで行く街、歌仙兼定の目にふと飛び込んできた――”紋入り””選べる色! 刀剣ごとに複数色あり!”。
「あ。これ。…同田貫、これならどうだろう」
 色とりどりの、本丸の色合いの。幸せの橋渡しの意味のある。
 顕現している72振分と、紋の入っていない主用のものとを選び、購入した。
いくつか、”是非、受け取って欲しい”物も選んで、薄暗くなる前に、2振はようやく本丸の門をくぐった。

 館の玄関に立つまでに、歌仙兼定は立ち止まって、周囲に目を走らせた。満ち足りて膨らんでいた気持ちが、ふっと静まる。少々目を細めて、ひそやかに言った。
「静かだ」
 数歩前を行っていた同田貫正国が立ち止まって振り返った。
「おう、そうだな」
「妙だな…敵の気配はしないが…なんだろう?」
「まあ、とにかく、荷物置こうぜ。それからだ」
「…君、何か知っているね?」
 あー、と同田貫正国は一時考えた。戦の時の激しさはまったく感じられず、歌仙兼定はいくらか安心した。
「心配性のあんたのために言っとくが、危険なことは何もねえから、安心しろよ。今からここで斬り合いなんかにゃならねえよ、残念だが」
「幸いと言わないか」
 同田貫正国の言葉に返し、歌仙兼定は足を進めた。玄関には、灯が点いていた。がらりと引き戸を開ける。

「ただい――」
「おかえりなさい!」
 パン、パンと弾ける音。キラキラと飛び出して舞い散った金銀桜色の紙吹雪。
 目を丸くして立ち尽くした歌仙兼定。一段上がった玄関をステージに見立てて、大般若長光、豊前江、篭手切江、静形薙刀、小豆長光がクラッカーを鳴らしたのだった。
「歌仙! あなたがこの本丸に顕現して今日で一年です! まだまだ見習いの身である私たちにいつも気を配ってもらい、ありがとうございます。これからも、歌って踊れる付喪神を目指して精進して参ります!」
 篭手切江がキラキラした瞳と笑顔で“舞台挨拶”をする。ったく、と言いながらも清々しく笑ったのは隣にいた豊前江だ。
「歌も踊りも、走りも、戦も。俺たちの道を、まっすぐ走っていこうぜ」
 大般若長光が涼しげに微笑む。
「改めて、これからもよろしくな、歌仙」
 一歩後ろにいた静形薙刀は照れたようにそわそわしていたが、ニコッと笑った。
「ああ、これからもよろしく頼む」
「いろんな おかしをたくさんつくって、みんなをえがおにしていこう」
 小豆長光の柔らかく低い声が言い終えて、なお、歌仙兼定は呆然としていた。無言で同田貫正国を振り返る。すると、いたずらっぽくニヤリと笑って、ほら、と顎でくっと進むように示した。
「荷物置いて、行こうぜ」
 預かろう、と静形薙刀がひょいと歌仙兼定の持っていた荷物を取り上げた。
「ああ、すまない。いや、…これは…」
「ありがとうって言っときゃいいんだよ! おら、行くぞ歌仙」
 ドシッ、と歌仙の背中を叩いて、同田貫正国が呆れる。大般若長光が笑った。
「こういう時は、同田貫のほうが風流を解しているんだなぁ」
 驚きすぎてむっとすることも忘れていたが、ようやく我に返って、歌仙兼定は同田貫正国に先導される途中、振り返った。
「ありがとう!」
 ひらひらと手を振り返され、微笑まれ、“舞台”を後にした。


(つづきます)

拍手[0回]

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
MAIL
URL
コメント
PASS   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
プロフィール
HN:
風枝 在葉(かざえだ さいは)
趣味:
 ゲーム(RPGが主)フルートと戯れる
自己紹介:
(ホームページの)誕生日は、
3月31日です。
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
P R
material by:=ポカポカ色=
忍者ブログ [PR]