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ふたつめです。

注意書きは前回の分にしてあります。

”例え”がなんかこう、もっとしっくりくるのがあれば変えます。

◆兼さんは選ばない。(2)


 風がそよぐ。優しく部屋の中を回る。
 歌仙兼定はふっと笑った。
「こういうことを、主とたくさん話したんだよ。小難しいことをたくさん考える人だ。主も計算ごとは苦手だろうに」
「…僕も…主さんと話したんです。昨日」
 函館出陣の、後だろう。
「僕は…兼さんを守りたい。…土方さんも…守りたかった。もしあの時、土方さんを守れていたら…もし、今…昨日の出陣でも、僕が土方さんを守っていたら…なんて」
 冗談であると示すように、堀川国広は小さく笑んだ。少なくとも今すぐ何かするつもりはないという意思表示に思われた。
「…でもそれは…遺された僕が思っていることなんだ。本当に土方さんは、あれで良かったのか、僕には分からない…でも僕は、生きていて欲しかった。守りたかった」
 歌仙さん、と呼んだ声は、途方にくれていた。
「あの時生き延びて、そして、少しでも幸せになってほしいと思ってしまうのは…僕が勝手に思っていることで、守ることとは違うのかな。
 侍の時代は、もう、終わっていた。土方さんが生き延びても、…ひっそり生きてくれれば…歴史に大きな変化はないんじゃないのかな。
 兼さんも…土方さんに幸せになって欲しかったはず」
 半ば独白のような堀川国広の訴えに、歌仙兼定は頷いた。
「君が守って、土方歳三が生き長らえて、別の歴史を歩む。それが今の歴史よりも幸せかどうかは分からないが、君は土方歳三を守ることができるだろう。
 そして土方歳三は、ひっそりと生きて、別の死に方をするだろう」
 堀川国広の瞳が揺れた。分かっている、それでも改めて誰かの言葉として聞くと、心は揺れた。ひっそりと生きる、それが果たして土方歳三の意思に沿うのだろうか。そして、人間は死ぬ。刀に比べれば本当にあっけなく、一瞬で。戦でなくても、いつかは寿命で。
 歌仙兼定の言葉は続いた。
「それが果たして函館での最期よりも良いものか悪いものかは分からない。良いか悪いかは、君の判断だ。君は、最高だと思える最期を迎えさせるまで、土方歳三を生き長らえさせ、歴史を作るだろう」

 はっと息を飲んだ。堀川国広は一時目を見張った。くしゃりと悲しそうに表情を歪め、無理やり笑んで、同時に歌仙兼定から顔を背けた。
「そうですよね。…そうですよね」
 思い通りにしたいのは自分なのだ。
 あの”時”は本来、もう過ぎ去った時なのだ。
「…昨日…。…兼さんは、行かなかった。僕に、行くぞって言わなかった。それどころか…」

 ――駄目だ駄目だ! てめえ言いつけ忘れたか。歴史は歴史、良くも、悪くも。

 堀川国広に言いながら、和泉守兼定は泣いていた。あの涙を思い、堀川国広は絞った声で呟いた。
「時間を越える術なんか、なくなってしまえばいいのに」
「…そうだね」
 堀川国広が鼻をすすった。顔を背けたまま袖で目を拭う。
 僕は、と穏やかな歌仙兼定の声。静かな和室と庭、風に乗る柔らかな低音。
「堀川や、皆と出会えたことを、嬉しく思うよ」
「…僕も」
 堀川国広は、歌仙兼定に顔を向けた。まだ潤んだ瞳のまま、にっこりと笑う。
「嬉しいです。兼さんにもまた会えましたし」 
「そうだね。君たちは二振一緒に在るべきだ。見ていてそう思うよ」
「ふふ。僕は兼さんの相棒であり助手ですから」
 歌仙兼定は、そっと、心の奥の刃を収めた。
「では、僕はそろそろ厨に行こうかな。ここはいい風が通る。僕もまた来ていいかい?」
「もちろんです」
 堀川国広の返事を受け取り、歌仙兼定はすっと立ち上がって縁側へ出る。
「歌仙さん」
 ややあってから呼び止められ、歌仙兼定は振り返った。堀川国広が深く頭を下げている。
「ご心配をおかけしてすみませんでした。僕だって…この本丸に…居たかったんです。だから…お話できて本当に、…良かったです。ありがとうございました」
 心の底から安堵したのは、どうやら歌仙兼定だけではなかったらしい。
「堀川」
 呼ばれて、堀川国広は袖で目を拭ってから顔を上げた。歌仙兼定が、ふうわり微笑んだ。
「これからもよろしく。本差・和泉守兼定の脇差、堀川国広」
 堀川国広は、これまでで一番の笑顔で応えた。
「任せてください!」



 堀川国広が顕現したばかりの和泉守兼定を連れて、最初にばったり会ったのが短刀たちだった。
「俺は和泉守兼定。かっこよくて強――…」
 あ、と言ったのは五虎退。
 あなたが、と秋田藤四郎。
 噂の、と薬研藤四郎。
 土方歳三の…、と小夜左文字。
 かっこよくて、と乱藤四郎。
 つよぉい、と応じて愛染国俊。
「兼さん、ですね!」
「兼さんですね!」
「兼さんか」
「兼さん…」
「兼さんだね!」
「兼さんだな!」
 顕現したばかりの和泉守兼定は面食らう。
「お、おう」
 てめえか、と視線を寄越した和泉守兼定に、にっこり笑った。

 あの時の、誇らしくて、舞い上がるような、溢れ出しそうな、叫びたいような気持ちを、堀川国広は忘れられなかった。






(以下、おまけです。審神者・代が堀川国広に言ったこと、こんな感じかと思います)
「大切なものが無くなるのは悲しい。大切なものが無くなるかもしれないのは恐ろしい。底なしの闇の沼のようだ。消えてしまうことや死ぬことなどより恐ろしい。
 大切なものが愛おしい。大切なものと心を共にするのが嬉しい。この上なく…今を、自分を、貴方を、大切だと思える。

 過去とはなんだろう。歴史改変とはなんだろう。歴史改変をしたとして、果たして今にしか居ない私に、その改変を認知することが適うのだろうか。
 もし今この時が既に改変された現在であるなら、一体時間遡行軍はどちらだろう。私たちは何を守ろうとしているのだろう。

 こんなことは考えても、今現在にしか居ない私や貴方に分かるはずもない。
 政府の守りたい歴史とは、何のことだろうな。

 私が守りたいのは、今この私たちと貴方たちだ。そして今この時、正史とされている歴史を、これ以上改変させないことだ。それしか出来ない。変わってしまったものを完全に元に戻すことなんてきっと出来ないだろうと思うんだよ。

 なくなったものを取り戻したいと思っているのは、遺った者だ。逝ってしまった者の思いは、推し量ることしか出来ない。
 
 歴史を変えれば、その先にいる私たちも変わるだろう。変わり、失われ、元には戻らないだろう。

 今この時を、今この時の自らを形作る記憶を、歴史を、全て消し去る――歴史改変とはつまり、少なくとも観測者の自分からすれば、そういうことだろう? そしてなくなったものを、なくならなかったことにする。…なくならなかったことになったその歴史では、一度はなくしてしまったことすら忘れているかもしれないね。

 もし、それだけでいいと、それだけしか望まないというのなら、私は構わない、止めない。それを貴方が自分に課すのだから、あなたはやらねばならないだろう? 悪いが審神者としての使命があるので、そのために貴方を妨害することはありうる。
 ただ、何にしても、これだけは忘れないで欲しいんだ。私は貴方のことが好きだよ」

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