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こんばんは、
人様の世界観でパロ(?)していたら胸熱になってしまって一本書いてしまいましたので載せます(許可済)
本日はこれだけのために来ました。
不具合解消されたし、書く癖つけねば!
*
またちまちま遊びに来て下さると嬉しいです。おやすみなさい!
つづきから、約5900字。
※人様の世界観にて、
※「別人」のセルヴァとリオナ、アリアが登場します
※関係性も違います
※ただ、元は拙宅の一次創作の彼らですので、色々反映しております
※お借りした世界観はこちら→https://rerendobiritelima7.wixsite.com/galaxyyyyy
※お借りした診断はこちら→https://shindanmaker.com/969714
「混々世譚アズウィグ」の世界観をお借りしました。書くにあたって、創作者様にたくさん質問させて頂きました。すべてに快くお答えくださって、楽しく書く事が出来ました。ありがとうございます。
人様の世界観でパロ(?)していたら胸熱になってしまって一本書いてしまいましたので載せます(許可済)
本日はこれだけのために来ました。
不具合解消されたし、書く癖つけねば!
*
またちまちま遊びに来て下さると嬉しいです。おやすみなさい!
つづきから、約5900字。
※人様の世界観にて、
※「別人」のセルヴァとリオナ、アリアが登場します
※関係性も違います
※ただ、元は拙宅の一次創作の彼らですので、色々反映しております
※お借りした世界観はこちら→https://rerendobiritelima7.wixsite.com/galaxyyyyy
※お借りした診断はこちら→https://shindanmaker.com/969714
「混々世譚アズウィグ」の世界観をお借りしました。書くにあたって、創作者様にたくさん質問させて頂きました。すべてに快くお答えくださって、楽しく書く事が出来ました。ありがとうございます。
「アズウィグセルヴァ」は、
・高齢期の人間です。
・外見は黒髪で、瞳の色は青です。
あとのことは作中で書いてあるはずです。
「0級能力の使い方」
時間すらのびやかに欠伸をするような穏やかな午後、珈琲の香り、しずかな談笑のカフェを、どっ、と爆風が吹き飛ばした。
予兆もなく、誰かが取り乱すような音などもなかった――精神不安定により能力が暴走することはありうる。
しかし、あれは事故などではなかった。
私は向いに座っていた友人が倒れている傍に寄った。私は柱の陰にいたから免れただけだ。
最も大切な友人が、呼んでも呼んでも、ぐったりと気を失ったままなのを支え、騒ぎの…いいや、静寂の中心に目を向けた。収まりゆく能力に高揚した笑みを浮かべる犯人がいた。事故に見せかけて己の力を試したのだろうか。理由など知らない。
私は思考を防御する力をもっている。なぜなら、防御する必要があるからだ。人の心は煩い。3級と認定される程度には、人の心が認知出来てしまう。私は常に、自分を守るために力を使っている。それ以上試したことはない。恐ろしいことだと直感していたから。
その時は、うっかり自分を守るのを忘れた。
ぎらぎらとした目でこちらに近寄ってきた犯人の、心はぞくぞくと、不揃いな刃のように私に迫った。煩い、煩い、残忍な心が首をもたげて私たちを、彼女を殺さんとしている。
恐怖ではなかった。私にあったのはただただ煮えくり返るような深い闇だった。
「 黙れ 」
私の力は、周囲の思考を私に届かないように防御するもの。
そして、周囲の思考や、特定の人物の思考までも、止まらせるものだったと、この時知った。
私の放った言葉、いいや、力のために、犯人の心は不意に黙りこくって、表情は消え、瞳は虚ろになり、ただそこに人形のように立ち尽くした。
その出来事から一年。
犯人も、彼女も、黙ったままだ。
*
目を開けることなく彼女は、病院のベッドでずっと点滴をされている。
体に異常はほぼないそうだ。ただ、夢も見なければ、夜以外は眠っているふうでもない、不可思議な状態だという。
彼女がこうなっているのは、恐らくは私のせいだった。思考だけが、止まってしまっているのだ。
認知してしまう心の喧騒から自分を守るようになって8年。誰かを止めてしまうなんて初めてのことだった。どうすれば、再び思考が動き出すのか、教えてくれる人など、いない。
アズウィグが発足した頃、彼女の助言もあり、心を認知する力を子供達のために使おうと考えた。未成年超能力者を支援する仕事が、アズウィグにはある。
もともと子供は嫌いじゃない。彼女と私が出会ったのがあと30年早かったら、結婚して子供をもっていただろう。そんなことを笑って話すくらいには、私たちは歳を取ってから出会い、なんでも話すことができた。
何人かの子供たちと、それぞれ週に1回から月に1回、会って話をする。そうして仕事をして、休みの日などには彼女と話す。子供たちのことも。もちろん実名は出さないが、彼女に相談したり、子供たちの面白かった言葉を話したりした。
その中のひとり、アリアという女の子は、成り行きでこの病室によく来るようになった。
「リオナさんって、お姫様みたい」
女子中学生は無垢にそう言った後、私を振り返っていたずらっぽく笑った。
どうして眠っているの? と、少女は私に尋ねたことがある。さすがに口ごもった。私の力のせい、かもしれないが、可能性の話…とはいえほぼ確実。カフェでの事件のこともある。どう話したものか。
「私が力をうまく使えなくて、”止まって”しまったんです」
「えっ、先生も力使うの下手なんですか? 子供みたい! 大人なのに!」
女子中学生、容赦など無い。容赦ない物言いをされたときは、容赦なく言い返すと決めています。
「大人だって、能力が出てから数えたらこどもです。私は7歳です」
アリアはけらけらと笑っていたが、じゃあ私は4歳だね、と言って、ふと、大人びてきたばかりの横顔を生真面目さで染めた。リオナを見つめて考えに耽る。
「先生、能力が出たときびっくりしましたか?」
「びっくりしました。どうしようかと思いました」
「ふぅん…」
じっと私を見て質問しては、アリアはまたリオナに視線を戻した。優しくてまっすぐな眼差しは、アリアの見つめる”お姫様”に似ていた。
「私も。…みんなびっくりしたんだ」
少女は呟いた。その言葉以上に、彼女が様々なことに思い至ったであろうことは、沈黙から察することができた。
少女は、実体のない、薄緑で半透明な人の形をしたものを顕すことができた。それをアリアは、「カタバミさん」と呼んでいる。カタバミさんは、花を咲かせたり、緑を茂らせたりすることができた。怖い存在ではないと理解したアリアは、友達にカタバミを見せた。すると、「おばけ」と怖がられて、からかわれた。親にも驚かれたという。理解のある親だったが、びっくりされてアリアは傷ついた。
「先生は、誰に能力のことを教わったの? カタバミさんみたいなひとは、先生やみんなには、いないよね」
「そうですね…初めて見るものは、よく観察して、触れてみるでしょう。それと同じです」
「そっか…先生、偉いんだね」
「ありがとう、でもアリアだって、カタバミさんと初めて会ったときは、まず良く見て、知ろうとしたのではありませんか?」
「うん…しました。みんな、なんでも、初めてだもんね」
聡い少女は、またひとつ、自分の中に落とし込んだようだった。そして、ふと尋ねた。
「リオナさんはいつ起きるんですか?」
「…分かりません」
ふうん、と、察して少女は黙ったが、お姫様を見つめながら微笑んだ。
「出来ますよ」
「ん?」
「先生、リオナさんに起きて欲しいんですよね? 出来ますよ、先生。”よく気をつけて、よく見るんですよ”!」
少女が、私に、私の教えたことを返してくれた。「生まれたときは、赤ちゃんで、だんだんハイハイができるようになって、立てるようになって、今は走ったり、跳んだりできますね。どこから来たかわからないけれど、それも貴方の力。手や足の使い方が、だんだん分かったように、力の使い方も、だんだん分かるでしょう。よく、気をつけて、きちんと見るんですよ」。
教えるのだから、やらねばなぁと、私は思わざるをえない。力の使い方は、前よりは、マシになったが、さて、どうしたものか。
吟味していると少女が、先生、先生、と輝く瞳でにやにやと、こんなことを言う。
「先生、リオナさんに、キスしたら起きるんじゃないですか? ふふっ」
「…こら、本人の同意なくそういうことはするものじゃありません」
「先生ロマンが無い」
「先生モラルを持ってますから」
「んー。もっとロマンチックじゃないとモテませんよ先生!」
「結構ですよ。アリアはロマンチックな人が好きなんですね?」
「べ、別に、違うし、ずるい!」
*
アリアのカウンセリングは月に一回だ。きっと、来年高校に入学して、それでうまくやっていければ、カウンセリングは終わり。嬉しくもあり寂しくもあり。しかし頬が緩む。
放課後になる少し前に、アリアの中学校を訪れる。
正門をくぐって、来客用の下駄箱のあるほう、職員室があるほうに行く。慣れたものでスリッパを、出す前に違和感を覚えた。
受付にいつもいる、警備員の人がいない。
妙だ。いつもと学校の空気感が違う。
スリッパは、危険だと判断した。申し訳ないが土足で失礼する。後で拭けば廊下は綺麗になる。職員室は、もぬけの殻。いくらHRの時間でもこんなことはない。
思いついた。”よく気をつけて、よく見るんですよ”と、アリアの声が蘇る。
私は、防御を外した。これで何もしなければ、近くの人の思考だけが自動的に認知できる。…誰もいなかった。
多分だが、私は、これ以上、出来る可能性を感じていた。試したことはなかった。…怖かったのだと思う。しかし今はそれ以上に怖いことがある。
広げた。
どうやるかなど分からないが、広げてみた。心を認知する範囲を制限することをやめた。その瞬間聴こえてきた阿鼻叫喚の子供たちの声と、悪意、悪意、悪意が、複数。2階だ、2階に。
悪意、悪意は、能力者の子供を殺しに来ていた。ふざけるな。
誰が能力が欲しいと願って手に入れた。お前の子供に能力が出たらお前は子供を殺すのか。お前に能力が発現したら、お前は死ぬのか。お前が悪意を振りかざし誰かを傷つけ殺すのと、子供が力をうまく扱えるようにひとり努力しやがて社会の役に立つまでに成長するのと、見比べてどう思う。
階段はまだまだ私の敵ではない大丈夫、息切れも気にならない。
声を辿る。心が煩い。ある教室から声が、声がずっと叫んでいる。ああ、アリアの教室だ。アリアが居る。ほかの教室からも恐怖が溢れている。
犯人は、こんなことをしている時点で無差別と呼びたいところだが、能力者の子供以外を傷つけることを恐れているものもいる。とはいえ同情の余地はない。子供たちの声からして今にも傷つけられることをしている。先生たちも頑張っている。なんてことだ、まだ、通報ボタンは押せていないらしい。アズウィグの常任カウンセラーは…名乗り出ようとしたアリアを引き止めた。
あの子はそういう子だ。出てはいけない、出ては。私がもっと早く歩いたり走ったりできればいいのに。
「わ、私だから。みんなをはなしてください」
心ではなくて肉声で聞こえた、教室のドアを開け放った。
集まる視線、おそらく範囲攻撃の構えをしている犯人、犯人の伸ばした両手の前でじっと立ったまま泣いている子供、アリアに振り払われた手を伸ばしていたカウンセラー、交渉していたのであろう勇気ある担任、取り巻く子供たち、私を見て泣きそうな顔をしたアリア…。
判断をすっとばして私は、すべてに対して、思考の防御を行使した。
煩かった声がふっと消える。この教室も隣の教室も、学校中。世界が消えてしまったかのように。海が、突如として風を失って凪ぐように。
教室の誰もが、私に注目した格好のまま、しかし虚空を見つめて無表情となった。犯人の両手は上げ続ける力を失ってじわじわと降ろされた。
静まり返った場に、鼓動の音と、息切れだけが聞こえる。
心は止まっている。私にはそれが、きちんと、分かった。私が、意図して、止めたものだ。いつも、防御してばかりだから、きちんと認知することはできるはずなのに、うまく扱えていなかったのだ、多分。
じっと虚空を見つめる瞳たち。無垢な唇がほわっと開いている。
子供たちの合間を抜けていき、優しい少女の頭を撫でた。
「よく頑張りました、アリア」
そして、立たされて泣いていた子供を、抱き上げる、ことができたら良かったが、無理だったので、申し訳ないが椅子を持ってきて、膝カックンをして座ってもらい、それをどうにかこうにか、床をひっかきながら引きずって犯人から遠ざけた。重労働だった。
それから、カウンセラーの持ち物を漁った。この人なら多分…やはり、いざという時の結束バンドを持ってきている。流石です。
私は、とりあえずアズウィグへの通報ボタンを押して、悪意を察知した教室へ行って犯人たちに結束バンドをつけて回った。数分のうちに、近場にいたアズウィグ職員が到着したので、まずなにより私の職員証を見せて、事情を説明し、これからすることを説明した。
教室に戻った。アリアはそれほど犯人に近くはないが、念のため私が間に立っておく。
さて、犯人以外の思考を開始しなければならない。
開始。開始か。
私は、少し考えて、両手を掲げ、パン! と乾いた音を鳴らした。あっ、と脳が気が付くような音だ。私の脳も驚くくらいに、良い音が出たものだ。
すると子供たちが一斉に、瞬きをして、きょろきょろして、声を上げだした。戸惑い、戸惑い、不安、気づき、安堵してよいのか…ああ、もう大丈夫だよ。
戸惑い、怒り、ああ、うっかり犯人も起こしてしまった。私を睨んで声を荒らげようとしたので一言と共に力を使ってみる。
「 黙りなさい 」
すると表情が消えて虚空を眺め始めた。
なるほど、こうか。
分かってきた。
私の力は、人の思考の停止と、開始をも、指示出来るもの。
私の力は、防御しない限りは近くの人の思考を認知でき、また、ある程度遠くても、やろうと思えば認知出来るもの。
「先生、」
アリアが私の背中で呼んだ。泣きそうな少女に、私はもう一度伝える。
「よく頑張りましたね、アリア。ありがとう」
うん、と頷く少女に、助けられたのだよと話すのは、事態がすべて収まってから、ゆっくりにしよう。
よく気をつけて、よく見なければね。
*
目を開けることなく彼女は、病院のベッドでずっと点滴をされている。体に異常はないそうで、本当に良かった。
カーテンの開いた窓からは、少し遅い朝の光。ベッドサイドに座って手を取って、彼女に呼びかけた。
「 おはよう、リアンナ 」
すると、ふと、瞼が動いて、ぱち、ぱちと瞬きして、彼女は私を見つけて、私の手を握り返した。
「おはよう、セルヴァ」
そして笑った。
「どうして泣くの?」
私が首を振った、言葉は出なかった、涙は一滴に留めた。
彼女は、病室や、白いベッドや、点滴に、目をやって不思議そうにして、ゆっくり起き上がって――私はそれを手伝った――いつものように、穏やかに話した。
「何か、あったのね。私が心配させたのね。もう大丈夫よ」
「君のせいじゃない。僕が…力加減を間違えたせいで、君の一年を奪ってしまった。…申し訳ない…」
深々と頭を下げれば、まあ、と彼女は驚いたようだった。一年、飛ばして、今日に来てしまったようなものだ。
「私、たいむすりっぷしてしまったみたい」
そんな簡単な言葉で片付けていいのかと顔を上げて抗議しかけたが、彼女があんまり優しく笑うので、何も言えなかった。私を許すと、言ってくれているのだ。彼女は、心を認知する力など、ないはずだが、私がよく自分を許さずにいることを、知っている、気がする。
「私、カフェに行きたい。新しいメニューがあるかしら」
「実は私も、しばらく行ってなかったんだ」
「そうなの。じゃあ楽しみなのは一緒ね」
それが、と、私はもったいぶった。リオナが首をかしげた。私は楽しい気持ちを隠さずに告げた。
「会わせたい子がいるんだ」
リオナは釣られるように笑った。
「もっと楽しみになった」
リオナをお姫様と呼んだ、優しく勇敢な女の子を、是非会わせてみたかった。
*
私の力は、私の知る場所のうち、任意の半径約1km範囲の人の思考の停止と開始を指示出来るもの。また、その範囲の思考を任意で認知できるもの。
私の力は、視界に入る場所及び私の周囲半径約20m範囲の人々の思考を、防御しない限り自動で認知すること。
私は0級と認定された。
彼女が私の食事にたまねぎを混ぜていないか知るのに、とっても便利な力です。
…冗談ですよ、反則みたいですから、やりませんよ。たまにしか。
◆「0級能力の使い方」おわり
・高齢期の人間です。
・外見は黒髪で、瞳の色は青です。
あとのことは作中で書いてあるはずです。
「0級能力の使い方」
時間すらのびやかに欠伸をするような穏やかな午後、珈琲の香り、しずかな談笑のカフェを、どっ、と爆風が吹き飛ばした。
予兆もなく、誰かが取り乱すような音などもなかった――精神不安定により能力が暴走することはありうる。
しかし、あれは事故などではなかった。
私は向いに座っていた友人が倒れている傍に寄った。私は柱の陰にいたから免れただけだ。
最も大切な友人が、呼んでも呼んでも、ぐったりと気を失ったままなのを支え、騒ぎの…いいや、静寂の中心に目を向けた。収まりゆく能力に高揚した笑みを浮かべる犯人がいた。事故に見せかけて己の力を試したのだろうか。理由など知らない。
私は思考を防御する力をもっている。なぜなら、防御する必要があるからだ。人の心は煩い。3級と認定される程度には、人の心が認知出来てしまう。私は常に、自分を守るために力を使っている。それ以上試したことはない。恐ろしいことだと直感していたから。
その時は、うっかり自分を守るのを忘れた。
ぎらぎらとした目でこちらに近寄ってきた犯人の、心はぞくぞくと、不揃いな刃のように私に迫った。煩い、煩い、残忍な心が首をもたげて私たちを、彼女を殺さんとしている。
恐怖ではなかった。私にあったのはただただ煮えくり返るような深い闇だった。
「 黙れ 」
私の力は、周囲の思考を私に届かないように防御するもの。
そして、周囲の思考や、特定の人物の思考までも、止まらせるものだったと、この時知った。
私の放った言葉、いいや、力のために、犯人の心は不意に黙りこくって、表情は消え、瞳は虚ろになり、ただそこに人形のように立ち尽くした。
その出来事から一年。
犯人も、彼女も、黙ったままだ。
*
目を開けることなく彼女は、病院のベッドでずっと点滴をされている。
体に異常はほぼないそうだ。ただ、夢も見なければ、夜以外は眠っているふうでもない、不可思議な状態だという。
彼女がこうなっているのは、恐らくは私のせいだった。思考だけが、止まってしまっているのだ。
認知してしまう心の喧騒から自分を守るようになって8年。誰かを止めてしまうなんて初めてのことだった。どうすれば、再び思考が動き出すのか、教えてくれる人など、いない。
アズウィグが発足した頃、彼女の助言もあり、心を認知する力を子供達のために使おうと考えた。未成年超能力者を支援する仕事が、アズウィグにはある。
もともと子供は嫌いじゃない。彼女と私が出会ったのがあと30年早かったら、結婚して子供をもっていただろう。そんなことを笑って話すくらいには、私たちは歳を取ってから出会い、なんでも話すことができた。
何人かの子供たちと、それぞれ週に1回から月に1回、会って話をする。そうして仕事をして、休みの日などには彼女と話す。子供たちのことも。もちろん実名は出さないが、彼女に相談したり、子供たちの面白かった言葉を話したりした。
その中のひとり、アリアという女の子は、成り行きでこの病室によく来るようになった。
「リオナさんって、お姫様みたい」
女子中学生は無垢にそう言った後、私を振り返っていたずらっぽく笑った。
どうして眠っているの? と、少女は私に尋ねたことがある。さすがに口ごもった。私の力のせい、かもしれないが、可能性の話…とはいえほぼ確実。カフェでの事件のこともある。どう話したものか。
「私が力をうまく使えなくて、”止まって”しまったんです」
「えっ、先生も力使うの下手なんですか? 子供みたい! 大人なのに!」
女子中学生、容赦など無い。容赦ない物言いをされたときは、容赦なく言い返すと決めています。
「大人だって、能力が出てから数えたらこどもです。私は7歳です」
アリアはけらけらと笑っていたが、じゃあ私は4歳だね、と言って、ふと、大人びてきたばかりの横顔を生真面目さで染めた。リオナを見つめて考えに耽る。
「先生、能力が出たときびっくりしましたか?」
「びっくりしました。どうしようかと思いました」
「ふぅん…」
じっと私を見て質問しては、アリアはまたリオナに視線を戻した。優しくてまっすぐな眼差しは、アリアの見つめる”お姫様”に似ていた。
「私も。…みんなびっくりしたんだ」
少女は呟いた。その言葉以上に、彼女が様々なことに思い至ったであろうことは、沈黙から察することができた。
少女は、実体のない、薄緑で半透明な人の形をしたものを顕すことができた。それをアリアは、「カタバミさん」と呼んでいる。カタバミさんは、花を咲かせたり、緑を茂らせたりすることができた。怖い存在ではないと理解したアリアは、友達にカタバミを見せた。すると、「おばけ」と怖がられて、からかわれた。親にも驚かれたという。理解のある親だったが、びっくりされてアリアは傷ついた。
「先生は、誰に能力のことを教わったの? カタバミさんみたいなひとは、先生やみんなには、いないよね」
「そうですね…初めて見るものは、よく観察して、触れてみるでしょう。それと同じです」
「そっか…先生、偉いんだね」
「ありがとう、でもアリアだって、カタバミさんと初めて会ったときは、まず良く見て、知ろうとしたのではありませんか?」
「うん…しました。みんな、なんでも、初めてだもんね」
聡い少女は、またひとつ、自分の中に落とし込んだようだった。そして、ふと尋ねた。
「リオナさんはいつ起きるんですか?」
「…分かりません」
ふうん、と、察して少女は黙ったが、お姫様を見つめながら微笑んだ。
「出来ますよ」
「ん?」
「先生、リオナさんに起きて欲しいんですよね? 出来ますよ、先生。”よく気をつけて、よく見るんですよ”!」
少女が、私に、私の教えたことを返してくれた。「生まれたときは、赤ちゃんで、だんだんハイハイができるようになって、立てるようになって、今は走ったり、跳んだりできますね。どこから来たかわからないけれど、それも貴方の力。手や足の使い方が、だんだん分かったように、力の使い方も、だんだん分かるでしょう。よく、気をつけて、きちんと見るんですよ」。
教えるのだから、やらねばなぁと、私は思わざるをえない。力の使い方は、前よりは、マシになったが、さて、どうしたものか。
吟味していると少女が、先生、先生、と輝く瞳でにやにやと、こんなことを言う。
「先生、リオナさんに、キスしたら起きるんじゃないですか? ふふっ」
「…こら、本人の同意なくそういうことはするものじゃありません」
「先生ロマンが無い」
「先生モラルを持ってますから」
「んー。もっとロマンチックじゃないとモテませんよ先生!」
「結構ですよ。アリアはロマンチックな人が好きなんですね?」
「べ、別に、違うし、ずるい!」
*
アリアのカウンセリングは月に一回だ。きっと、来年高校に入学して、それでうまくやっていければ、カウンセリングは終わり。嬉しくもあり寂しくもあり。しかし頬が緩む。
放課後になる少し前に、アリアの中学校を訪れる。
正門をくぐって、来客用の下駄箱のあるほう、職員室があるほうに行く。慣れたものでスリッパを、出す前に違和感を覚えた。
受付にいつもいる、警備員の人がいない。
妙だ。いつもと学校の空気感が違う。
スリッパは、危険だと判断した。申し訳ないが土足で失礼する。後で拭けば廊下は綺麗になる。職員室は、もぬけの殻。いくらHRの時間でもこんなことはない。
思いついた。”よく気をつけて、よく見るんですよ”と、アリアの声が蘇る。
私は、防御を外した。これで何もしなければ、近くの人の思考だけが自動的に認知できる。…誰もいなかった。
多分だが、私は、これ以上、出来る可能性を感じていた。試したことはなかった。…怖かったのだと思う。しかし今はそれ以上に怖いことがある。
広げた。
どうやるかなど分からないが、広げてみた。心を認知する範囲を制限することをやめた。その瞬間聴こえてきた阿鼻叫喚の子供たちの声と、悪意、悪意、悪意が、複数。2階だ、2階に。
悪意、悪意は、能力者の子供を殺しに来ていた。ふざけるな。
誰が能力が欲しいと願って手に入れた。お前の子供に能力が出たらお前は子供を殺すのか。お前に能力が発現したら、お前は死ぬのか。お前が悪意を振りかざし誰かを傷つけ殺すのと、子供が力をうまく扱えるようにひとり努力しやがて社会の役に立つまでに成長するのと、見比べてどう思う。
階段はまだまだ私の敵ではない大丈夫、息切れも気にならない。
声を辿る。心が煩い。ある教室から声が、声がずっと叫んでいる。ああ、アリアの教室だ。アリアが居る。ほかの教室からも恐怖が溢れている。
犯人は、こんなことをしている時点で無差別と呼びたいところだが、能力者の子供以外を傷つけることを恐れているものもいる。とはいえ同情の余地はない。子供たちの声からして今にも傷つけられることをしている。先生たちも頑張っている。なんてことだ、まだ、通報ボタンは押せていないらしい。アズウィグの常任カウンセラーは…名乗り出ようとしたアリアを引き止めた。
あの子はそういう子だ。出てはいけない、出ては。私がもっと早く歩いたり走ったりできればいいのに。
「わ、私だから。みんなをはなしてください」
心ではなくて肉声で聞こえた、教室のドアを開け放った。
集まる視線、おそらく範囲攻撃の構えをしている犯人、犯人の伸ばした両手の前でじっと立ったまま泣いている子供、アリアに振り払われた手を伸ばしていたカウンセラー、交渉していたのであろう勇気ある担任、取り巻く子供たち、私を見て泣きそうな顔をしたアリア…。
判断をすっとばして私は、すべてに対して、思考の防御を行使した。
煩かった声がふっと消える。この教室も隣の教室も、学校中。世界が消えてしまったかのように。海が、突如として風を失って凪ぐように。
教室の誰もが、私に注目した格好のまま、しかし虚空を見つめて無表情となった。犯人の両手は上げ続ける力を失ってじわじわと降ろされた。
静まり返った場に、鼓動の音と、息切れだけが聞こえる。
心は止まっている。私にはそれが、きちんと、分かった。私が、意図して、止めたものだ。いつも、防御してばかりだから、きちんと認知することはできるはずなのに、うまく扱えていなかったのだ、多分。
じっと虚空を見つめる瞳たち。無垢な唇がほわっと開いている。
子供たちの合間を抜けていき、優しい少女の頭を撫でた。
「よく頑張りました、アリア」
そして、立たされて泣いていた子供を、抱き上げる、ことができたら良かったが、無理だったので、申し訳ないが椅子を持ってきて、膝カックンをして座ってもらい、それをどうにかこうにか、床をひっかきながら引きずって犯人から遠ざけた。重労働だった。
それから、カウンセラーの持ち物を漁った。この人なら多分…やはり、いざという時の結束バンドを持ってきている。流石です。
私は、とりあえずアズウィグへの通報ボタンを押して、悪意を察知した教室へ行って犯人たちに結束バンドをつけて回った。数分のうちに、近場にいたアズウィグ職員が到着したので、まずなにより私の職員証を見せて、事情を説明し、これからすることを説明した。
教室に戻った。アリアはそれほど犯人に近くはないが、念のため私が間に立っておく。
さて、犯人以外の思考を開始しなければならない。
開始。開始か。
私は、少し考えて、両手を掲げ、パン! と乾いた音を鳴らした。あっ、と脳が気が付くような音だ。私の脳も驚くくらいに、良い音が出たものだ。
すると子供たちが一斉に、瞬きをして、きょろきょろして、声を上げだした。戸惑い、戸惑い、不安、気づき、安堵してよいのか…ああ、もう大丈夫だよ。
戸惑い、怒り、ああ、うっかり犯人も起こしてしまった。私を睨んで声を荒らげようとしたので一言と共に力を使ってみる。
「 黙りなさい 」
すると表情が消えて虚空を眺め始めた。
なるほど、こうか。
分かってきた。
私の力は、人の思考の停止と、開始をも、指示出来るもの。
私の力は、防御しない限りは近くの人の思考を認知でき、また、ある程度遠くても、やろうと思えば認知出来るもの。
「先生、」
アリアが私の背中で呼んだ。泣きそうな少女に、私はもう一度伝える。
「よく頑張りましたね、アリア。ありがとう」
うん、と頷く少女に、助けられたのだよと話すのは、事態がすべて収まってから、ゆっくりにしよう。
よく気をつけて、よく見なければね。
*
目を開けることなく彼女は、病院のベッドでずっと点滴をされている。体に異常はないそうで、本当に良かった。
カーテンの開いた窓からは、少し遅い朝の光。ベッドサイドに座って手を取って、彼女に呼びかけた。
「 おはよう、リアンナ 」
すると、ふと、瞼が動いて、ぱち、ぱちと瞬きして、彼女は私を見つけて、私の手を握り返した。
「おはよう、セルヴァ」
そして笑った。
「どうして泣くの?」
私が首を振った、言葉は出なかった、涙は一滴に留めた。
彼女は、病室や、白いベッドや、点滴に、目をやって不思議そうにして、ゆっくり起き上がって――私はそれを手伝った――いつものように、穏やかに話した。
「何か、あったのね。私が心配させたのね。もう大丈夫よ」
「君のせいじゃない。僕が…力加減を間違えたせいで、君の一年を奪ってしまった。…申し訳ない…」
深々と頭を下げれば、まあ、と彼女は驚いたようだった。一年、飛ばして、今日に来てしまったようなものだ。
「私、たいむすりっぷしてしまったみたい」
そんな簡単な言葉で片付けていいのかと顔を上げて抗議しかけたが、彼女があんまり優しく笑うので、何も言えなかった。私を許すと、言ってくれているのだ。彼女は、心を認知する力など、ないはずだが、私がよく自分を許さずにいることを、知っている、気がする。
「私、カフェに行きたい。新しいメニューがあるかしら」
「実は私も、しばらく行ってなかったんだ」
「そうなの。じゃあ楽しみなのは一緒ね」
それが、と、私はもったいぶった。リオナが首をかしげた。私は楽しい気持ちを隠さずに告げた。
「会わせたい子がいるんだ」
リオナは釣られるように笑った。
「もっと楽しみになった」
リオナをお姫様と呼んだ、優しく勇敢な女の子を、是非会わせてみたかった。
*
私の力は、私の知る場所のうち、任意の半径約1km範囲の人の思考の停止と開始を指示出来るもの。また、その範囲の思考を任意で認知できるもの。
私の力は、視界に入る場所及び私の周囲半径約20m範囲の人々の思考を、防御しない限り自動で認知すること。
私は0級と認定された。
彼女が私の食事にたまねぎを混ぜていないか知るのに、とっても便利な力です。
…冗談ですよ、反則みたいですから、やりませんよ。たまにしか。
◆「0級能力の使い方」おわり
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