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続きです。

◆音集め屋5(未完成ver.)(2)

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 ある日、秋田藤四郎が折れた。
 遠征中、希だが敵に遭遇することはある。主は必ず、戦闘を想定した刀装を持たせて送り出す。
 ただただ運が悪かった。検非違使に遭遇したのだ。
「遠征…時間遡行、しているが…たった…これだけのことが、歴史に影響を及ぼすと判断されたというのか…?」
 帰ってきた刀剣男士たちを手入れし、もう二度と人の姿に戻らない、直らない、折れた短刀・秋田藤四郎を前に、主は深く考え込んだ。この折れた刀身も、やがては消えていく。
「秋田…もう戻ってこないのか…。…まるで時の亀裂に吸い込まれてしまったようだ…」
 その後、秋田藤四郎の最期の様子や、言葉を、帰ってきた刀剣男士たちから聴きながら、主はただただ頷いていた。

 それからおかしくなり始めた。

 一年で三振が折れた。堀川国広。薬研藤四郎。和泉守兼定。
 刀が折れるとき、山姥切国広はその部隊に所属せず、そして必ず遠征中だった。
帰ってから、あいつが折れた、と聴き、愕然としたものだ。敵が強くなっているとは感じていたが、それほどとは、とも思った。そして打ちひしがれる主になんと声をかけたら、と…二振目までは思った。
 三振目で、違和感を覚えた。主は、同じ失敗を何度も繰り返すような人ではない。遠征中で詳しい状況が分からないが、他の刀剣男士に話を聞いていくと、やはりおかしい。
 なぜ強制的にでも撤退させなかったのか。状況を聞けば、撤退しても歴史改変のリスクは高いとは思えなかった。
 その編成でその被害ならば、折れる可能性も考えられたのではないか。
 主は理由もなく何かする人ではない。

 そして四振目が折れた。
 陸奥守吉行が。
 遠征から戻りそのことを聞いた山姥切国広は、すぐに主の部屋へ向かった。色んな考えや思いがせめぎ合って、逆に頭が真っ白になった。

「主」
 白い髪、紺碧の瞳。入口に背を向けて座っていた主は、静かに振り返る。普段は全く見せないが凄まじい霊力をもっていることを、山姥切国広は知っている。
 失礼する、と部屋へ入るなり、尋ねた。
「なぜ進軍させた? 進軍指示のあった時点では、たしかに重傷者はいなかったと聞いた。しかし練度や編成を考えれば、この事態は推測できたはずだ」
「…そうかもしれない」
 静かな声に山姥切国広は心が掻き乱された。これから尋ねることを知っているようだ。そしてその答えをもう、心に持っているように感じられたのだ。山姥切国広の望まない答えを。
「あんたに限って熟考せずに進ませるわけもない」
「…そうだな」
「主! 今回だけじゃない。最近のあんたは、何かおかしい」
 穏やかな表情で、主は何も言わない。それが余計に恐ろしい。
「主。…主。何か言ってくれ…。なぜ、理由を教えてくれないんだ。あんたに限って…。今回のことだってちゃんとした理由があるはずだ。説明してくれれば俺は分かるから。主。あんたは…」
 ――わざと折ったのではないと言ってくれ――…。
「…大切な理由があったのだと、俺に、ちゃんと、説明してくれ…」
 国広、と主は呼んだ。
「お前に嘘はつきたくないし、お前に嘘は通じない。…全てを明かせば、お前は私を斬る」
「やめてくれ! やめてくれ、主…俺が…あんたを斬れるはずが」
「お前は斬るよ、国広。お前は私の清らかな正義の部分だけで顕現した。…私はお前に嘘をつけない。幻滅されるだろうが、避けられまい。せめて最後まで聞いておくれ」
 山姥切国広の予想以上に最悪の内容だった。
 折れる可能性があると知っていて、しかし無事に帰ってくる可能性もあると思えるところで、わざと進軍させた。
 なぜか? 愛おしい刀剣男士の折れた姿が見たくて仕方がないから。それは抗い難い欲求で、食べることや寝ることに近いのだと。
 世界が崩れるような目眩がした。耳を塞ぎたかった。
「これからのことも考えていた」
 言われた通り最後まで聞こうと、山姥切国広は唇も拳もギュッと結んだまま、じっと立っていた。
「時間遡行は、やはり、すべきではない。秋田が折れた時からずっと考えていた」
 時間遡行をしない。つまり正規の審神者をやめる。本丸を引き払うことになる。
「私は現代で戦う。無為に時間遡行をする者は歴史改変をする者だ。話が通じて考えを改めてくれればいいが、そうでないなら敵として斬り捨てる。…ああ、そうだよ国広。歴史修正主義者も、審神者もだ」
 山姥切国広は、長い間黙っていた。この話を覆してくれる何かなど、無いというのに。
「…どうすればあんたを止められるのか、分からない」
 はは、と主は笑った。
「それはお前が、もう斬るしか止める方法がないと分かっているからだ」
「あんたは間違ってる」
 斬るしかない――反射的に、その言葉を認識するのを拒んで、無視して、山姥切国広は言い返す。
「俺は、あんたが審神者をやめても、現代で戦うと言い出しても、どこまでもついていこうと…思っていた…」

 主は否定も肯定もせずに聞いている。
「歴史修正主義者は歴史を改変しようとしている。審神者と刀剣男士たちは、それを阻止するために戦っている。…歴史を、人間と刀の誇りを、守るために、戦っている。時間遡行というやり方があんたの考えにそぐわないとしても、あんたがそれを斬るなんて、していいと思うのか?」
「私のような者にしか、出来まい? 刀を折ることを心の底から嫌っていては、他の本丸を滅ぼすことなんて、辛すぎて出来まい」
「主。答えになっていない」
「国や世界の規律を無視して、一人の人間が、自分が悪と判断したものを斬っていいと思っているのかと、そういうことか?」
「歴史修正主義者のようなエゴではない。俺たち…審神者や刀剣男士たちは歴史を守るべく戦っている。俺たちもそうしてきた。あんただってそのために戦ってきて、そして審神者を辞めてでも自分の道を貫こうとしているんじゃないのか? 時間遡行をすることが悪だと考えたとしても…刃ではない、言葉という手段が、あるじゃないか」
 ははは、と主は笑う。
「主! 俺は真剣に…」
「分かっている。国広、分かっている。笑ってすまなかった。刀の付喪神だが、人の身も声も言葉も、もっているものな。やはりお前は、私の清らかな正義の心だ。
 国広、私は、時間遡行はもうたった今から一切誰にもさせたくないくらいに思っているんだよ。この技術自体を潰す術が見つかったらそうするつもりだ。しかし技術を潰す方法は今のところ皆目見当がつかない。
 もちろん話すさ、武力だけに頼れば同志になりうるものまで斬ってしまいうるだろ。
 お前は信じられないかもしれないが、戦のことも時間遡行のことも何も考えずに審神者をやっている輩もいるようだ。私はそういった者を言葉で諭せるほど出来る人間ではない。
 歴史修正主義者とまともに言葉を交わせたことがないのと同じだ」
「…あんたが政府の人間になって大元を変えればいいじゃないか」
 思いつきだが、主の案よりはかなりいいと思った。山姥切国広の言葉に主は少々渋い顔をする。
「言っていなかった気がするな、そういえば。私はもともと政府側だった」
「…」
「下のほうの人間ではあったが。しかし私だから、一部の人間関係が非常に悪くてな…上司とな。察して辞めて審神者になった」
「今なら…その人間と以外なら、うまくやれるかもしれないじゃないか」
「…そうかもしれない。…私の、この欲求さえ、無ければな。正義の味方をやれたかもしれない。
 愛しい者の、すべての表情が見たいと、どうしても、思ってしまう。好きなのだよ、どうしようもなく。お前も、折れる時にどんな表情をするのか…どんな声を…言葉を…遺して逝くのか…」
 抑えきれない狂人の笑みが、主の顔に浮かんだ。それを主は一度目をつむって抑えた。
「私の力などたかが知れている。時間遡行を行い歴史修正主義者と戦うことが普通である今を覆すことが、私一人でできることとは思わない。私はこの考え方を広め、時間遡行をする者を減らし、私の考え方を継いだ者が増えて政府にまで考え方を広めてくれることを願うのがせいぜいだろう。流石に直接政府に楯突いてしまえば、私の命もそれまでだろうからな。やるとしても最後にする」
「…歴史修正主義者も審神者も殺し、刀剣を折り…あんたは、ひとりで戦うつもりなのか。俺のことも折っていくのか」
「ん…? ここまできて、お前は私の心配をするのか、国広」
 飄々と言う主。どうやらもう、言葉が、届かない。もう、何を言っても、心配しても、怒っても、泣いても…どうすれば、止められるのか、分からない――いや、分かっている。
 歴史修正主義者と相容れず斬り合っている現実を知っているのに、言葉で説得することを提案した。主だから、と。今までの主ならば、と…。

 山姥切国広は、俯いて、何も言わなかった。苦しげに呼吸を繰り返す。やがて、くそっ、と小さく悪態をついて、ばっと顔を上げた。その強い意思の宿る青い瞳に、主は魅入った。
「あんたは誰よりも、どこの審神者よりも、この戦で、人間たちや、俺たちの守りたい歴史を、共に守ってきてくれた。俺はあんたのことが、…っ…誰よりも、あんたのことを知ってると、思ってる。今もだ。だから…」
 山姥切国広は、揺れた言葉を一度区切った。
「あんたはその、欲求ってやつが、あんたの言うところの”悪”だと知っている。だから俺を遠征にやってたんだ。こうなることが分かっていたから。…”悪”だとしても、それもあんただ。あんただったんだ。だからそれを踏まえたうえで、それでも戦うためにあんたは、たくさん考えて、審神者をやめてひとりで戦う道を選ぼうとしている。
 だがその道は、あんたの”正義”をたくさん斬ることになる。俺たちも、他の真面目な審神者たちも刀剣男士たちも。欲求に気が付いていなかった以前のあんたなら、これを斬り伏せただろう。そして、もどかしくとも、刃ではなく言葉で戦うことを、選んでくれたはずだ。
 あんたの選んだ道だ。あんたは、行くしかない。…そして、俺があんたから示された”正義”の道は…今、あんたを斬ることだ」



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