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◆ラーカスの小話(3):鎖縁の
そんな俺になんだかんだ言いながら付いてきたり付いてこさせたりしたのがルイスだ。
「お前は未来を変えないまでも、視えた未来を意識して動くことがあるだろう? そうとしか思えないことがある」
それがまるで悪いことかのように――…悪いことかのように、聴こえたのは、俺がそう思っているからか。
ため息をついた。ルイスは、普段通りだった。ただまっすぐまっすぐ、言っただけだ。
「…そうだな。んで?」
「いや、何もないけど、お前が、それを嫌がってるような気がした。嫌がってるのに、気づかずにやってるのかもしれないと思ったから」
ルイスはさらに、あのさ、と間髪入れずに続ける。
「俺の、ディル族の予感とは段違いに具体的に視えるんだろうと思うよ。俺たちは予感だから、嫌な感じがすれば、避けられるなら避けるように動く。大抵、結果は見えないが、なんとなく選択肢の善し悪しを感じ取る。だけどお前の予知は違うんだろう。結果だけが見えて、どう選べばいいかなんて全く分からない。ってことだろ?」
そこまで理解されているとは思っていなかった。単純に驚いた。
「ああ。見直したぜ、若造」
「へっへ。で、だ。前、お前言ったな。視えた未来を変えちゃいけないんだって。あれは、世界の規則ってことか、それともお前が勝手に思ってるだけか?」
「ルディが勝手に思ってただけだろうよ」
「お前のお袋さんがか」
「お袋なのか」
「え、違うか?」
「創造者だろ」
「ま、いいか。なあ、世界のルールじゃないんなら、視えた未来に従わなくたって、自分で選び取っていけばいいんだろ? 大体、視えても、自分で選び取っていくしかないんだろ?」
ルイスは、しばし考えた。俺がなにも言わないからだろうか。
そして、考察の結果を言葉にした。
「…世界のルールじゃないし、従うどころか抗っているのに、視えた未来が現実になってしまうってことか」
驚いた。どこからそんな結論が出たんだ。
とても端的に、言葉として象られていた。
「言い得て妙だ。なんでそう思った?」
「いや、うーん」
ルイスは考えた。根拠なしかよ。
「違和感があった。お前にしては…無気力というか。空虚というか。もっと全力で抗うような気がするのに…疲弊してるというか」
あ、とルイスはにやっと笑う。
「年寄りくさい」
「うっせぇクソガキ」
はっはっは、とルイスは笑った。
「この若造の青臭い力で良かったら、お貸ししますよおじいさん」
「言ったなこいつ。扱き使ってやる。戦闘の前衛以外はお前担当だぞ」
「えっ、俺剣士」
「魔法使いが前提のな」
「でも俺剣士だから」
「俺も剣士だが」
「いや、俺も剣士の査定だから、アシストだけになると冒険者資格ヤバイ。引っかかって剥奪される。経験値くれ」
「あぁ」
確かにそうだ。不覚にも納得した。
で、それはともかく、とルイス。さっぱりと切り替える。
「お前は今、何に抗ってるんだ?」
こいつは本当に俺を助けるつもりだ。エルフに婿入りして森を守る騎士になったこいつは、まだ、若造だ。俺には奇妙に見えるくらい、真っ直ぐに見て、ものを言う。
「…病魔を取り除く方法を探してる」
ルイスは黙り込んだ。こいつはディル族。魔法使い。かなり知識もある。だから、病魔を取り除く方法がまだないということを、知っているのだろう。
「とすると…やっぱ呪い関連になるか…病魔を取り除くってことは多分、魔力ごと取り除くってことになるだろうからなぁ…実現可能かは別として思いつくこというと、巻き戻しの時間の魔法…これは対象に弊害出そうだし、時間魔法は現実的じゃないな…。あとは病魔呪いを分析して解いて、病魔呪いに対抗したり打ち消したりする魔法を、付与する、か…分析がなぁ…」
思ったよりも、ルイスはあっという間に、魔法に明るくないラーカスが調べて考えていたことを口にした。しかし知りたいのはその先のことだ。
「お前でも難しいか」
「ん? 俺、剣士。…だけど、そうだなぁ。俺だけじゃ、思いつきそうもない」
大した落胆はない。ルイスに今すぐ分かるくらいなら、すでに世界中の魔法使いや研究者が病魔への対処法を見つけているだろう。
だけど、とルイス。
「ツテはある。多分、少なくともお前よりは」
「ほう。俺は『南』のディル族とはもう繋がりがあるが、それ以上ってことか」
ラーカスの言葉に、ルイスは、まじか、と目を見開いた。
「いつのまに『南』まで行ってた…あー」
覚えがあったのだろう。ルイスは一人納得した。
「俺はもともと『南』出身だからそれはそれとして。セシアからの繋がりがあってな。うちの森に、預言者って呼ばれてるエルフがいるんだよ」
預言者。ラーカスは思わず、病魔のことではなく、予知についてのことで、期待を抱いてしまった。だがすぐにその期待を素通りして、考える。
「預言者っつっても、病魔をどうこうできるわけじゃねえんだろ?」
「手がかりとか、新たなツテにはなるんじゃないか? 多分。聞いてみるよ。あとは、メアの研究職に友達がいる」
「まじか!」
「おう」
一縷の希望が、見えた気がした。メア国とダーコン国の魔法研究職といえば、『北』の魔法使いの中で一流中の一流だ。
思わず深々と頭を下げていた。
「頼む」
しばらくしてから頭を上げると、ルイスは、真面目な顔で、なあ、と呼びかけた。
「フィアーナさんだろ」
あえて言っていなかった、名前をルイスはぴたりと言い当てた。
一時硬直し、答えずにいると、ルイスは再び言った。
「お前は、視えた未来を意識して動くことがあるからな。そうとしか、思えない」
ルイスは、今度こそ、少し俺を責めた。
「そうじゃなきゃ、お前は、フィアーナさんと、息子…エナくんか。ふたりを置いて、長期間の遠出なんか、するわけないだろ」
何が言いたいのか、薄々分かった。
病魔のことさえ、あんな未来さえ、視えなければ、俺は、ルイスの言うとおり、フィアーナとエナのそばにいただろう。冒険者業だって最低限にして、今を生きていたのだろう。
ああ――そうだ。俺はまた、”未来”に振り回されている。
ルイスは色々な思いと、それを象る言葉を、吟味しているようだったが、結局これだけ言った。
「後悔だけは…するなよな」
へっ、と、自嘲気味に笑ってしまった。フィアーナを助けるために全力を尽くして、あの未来を現実にしないようにしなければ、俺は後悔するだろう。
だが今、ルイスが言葉にしたことで、驚くべきことに、初めて俺は気がついた。俺は、蔑ろにしてしまった”今”を、いつか後悔するだろう――それは既に始まっている。しかしそれでも…フィアーナを助けることができたなら、その後悔だっていつの日か、ぬぐい去ることができるはずだ。彼女が生きている未来なのだから。
「…難しいことを言う。…あぁ」
ルイスが、さっき言った――「お前が、それを嫌がってるような気がした。嫌がってるのに、気づかずにやってるのかもしれないと思ったから」。
「ったく、恐れ入るぜ」
「え?」
呟きは届かず、ルイスは聞き返した。
俺は別の言葉を言う。
「悪ぃな。頼るぞ」
にっ、とルイスは笑った。
「おう。任せろ」
*
ルイスは物事を冷静に見る。そして理解する。自由に、助けたいと思えば全力で手を貸しに行く。
病魔への対処方法は、結局見つからなかった。あの未来は現実となった。
たどり着くまでの過程が、そしてその現実に対する俺の気持ちが、きっと、ルイスやフィアーナと出会ったかどうかで大きく違っただろう。…そういうことを微かにでも思いついたことがわずかながらの救いだった――救いとしていかなければならなかった、というのが正しいのかもしれない。
次は俺がルイスに手を貸す番だった。
例の預言者が、ルイスの息子について預言したという。
9歳までに、子の力を狙って厄災がやってくると。
「魔力が大きい。だからもう、魔法を教え始めてる。どうせ悪魔に狙われるのなら、悪魔についての知識ももたせて、冒険者やらせたほうがいいと思ってる。…決めるのはレン自身だが…」
ルイスは息子に知識を盾として与えていった。
ある時たずねた。
「なあ、俺やレンの未来は、視えてないだろ?」
そりゃ気になるだろう。
「なにも視えたことねぇよ。幸いな」
「そうか」
ルイスは、良かった、とは言わなかったが、少しほっとしたようだった。そうだろう。その気持ちはよく分かる。
それからルイスはふと言った。
「お前の気持ちが、ようやく少しだけ分かったのかもしれない」
ふっ、と思わず笑ってしまった。
「十分だ」
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