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◆ラーカスの小話(2):最愛の
「あなたの大事なものを、失くしていかないで」
そのために、すべてを救おうとしてるんだ。
すまねえ。
すまねえ、フィアーナ。
未来が視えても、それをどうすればいいか、分からねえ。
「じゃ、結局、未来が視えない人と同じだね。どうにか精一杯頑張っていくしかないね。
あなたは視えたことに立ち向かうから、まるで未来が決まっているようで、それに振り回されているようで、だから納得しにくいだけ。あるのは、今だけ。どの今も、自分がつかみとったもの。そうでしょ? 視えたものは、ただの手がかりだよ」
その”手がかり”を、どうやって覆せばいいのか。
あがいても変わらない経験が、無力感と虚しさばかりを募らせる。
「迷わないで。私はここにいる」
*
セル族というのは、魔女ルディが創造したもので、世界に数人存在する。予知の能力がある。この程度が、少しマニアックな奴が知っている”一般的な”知識だ。
「8人いる。予知の能力があるっていっても、自分で操作することはできねえ。ルディは盲目の魔女で、セル族よりも強い予知の力があった。あれと一緒だな、あの戦争の裏の物語として語られることがある、ヒューマンの姫、エリーゼと。
ともかくルディは、多分、寂しかっただけだ。予知と創造ばっかり得意なあいつは、はじまりの樹の下でセル族を創りだした。
そのひとりが俺だ。
大事なのはこっからなんだが、予知だかなんだか分からんが、もし…。…もしもだからな。俺に子供が出来たんなら、何かしら、変わった力が顕れる可能性がある。いいか悪いか分からん。…やめるんなら、今だぞ」
フィアーナは一度だけ、へえ、という表情をしたものの、あとは大して困った様子もない。
「うーん…」
しばらく考える。そして言った。
「魔力の強い人の子は魔力が強い傾向がある。エルフとミユの子は、精霊や魔法についてか、音の扱いについてか、能力があると思われる。すべての子供は、もしかしたら魔力が強いかも知れないし、全く魔法ができないかもしれないし、目が見えないかもしれないし、耳が聞こえないかもしれない。あなたが言ってるのって、そういう感じのことじゃないの?」
危機感を覚えていないのだろうと思った。現実的に考えられていないのだと。実感がないんだろう、当然だ。
「どうなるか分からねえ。いじめられるかもしれねえ。自分の力を持て余すかもしれねえ。望まない力だったと恨まれるかもしれねえ。生まれなければ良かったと、言われるかもしれねえぞ」
「…ルディに対して、そう思ったことがある、ってこと?」
全く思わなかったと言えば、嘘になる。だが。
「今は思ってねえよ」
フィアーナは頷いて、微笑んだ。
「あなたみたいな子が生まれるなら、大丈夫でしょ」
「あ? 俺みたいなのなんか、御免だぞ」
「そりゃあんた、父親になろうってんなら、免れないでしょうに」
「お前に似ればいいんだよ」
「あなたに似たほうがいい」
フィアーナは微笑んだ。
「なんにしてもね。不幸になんか、させないから」
そして目を合わせてまっすぐ問うた。
「そうでしょ?」
ああ、お前がそう言うのなら。俺を信じるというのなら。いいんだなと改めて問うたとしても、その答えは、俺の答えと同じ方向なのだろう。
俺が違うと言えばお前は引いていくだろう。俺がそうだと言えばお前はこのまま…。
「思い通りになんかならないよ、何もかも」
俺が逡巡した間に、フィアーナは言った。
そうだった。こいつは、あの戦も経験した奴だった。
元エルフのダークエルフだ、フィアーナは。『西』で起こったエルフとヒューマンの戦。あれに関わったエルフとヒューマンこそが、ダークエルフとダークヒューマンの起源だ。
とはいってもこいつはその頃まだ子供だった。ただただ巻き込まれただけだ――フィアーナにもそう言ったことがある。そしたらフィアーナは首を横に振った。私は私の意思であそこにいたのだと。何もわからない年齢ではなかったと。
「大体ね、まずは無事に産まれてから悩みましょうよ」
それもそうだ。先に出産という難所があるのだった。なんてことだ、失念するなんて。
「悪い。そうだな」
フィアーナが先に死ぬのだと視えたのは、エナが生まれた後だった。
*
恐らく病魔だった。
病気とは違う。それは呪いの一種、悪魔の一種だ。
俺は方法を探した。
『南』にまでも足を運んで。ディル族やドマール族との繋がりはこの時に始まった。
病魔。
そいつを取り除くということは、魔力ごと失わせるということだった。
医療で言うところの、切除する、ということらしい。 だが魔力はそう簡単に、必要な部分だけ切り取ることはできない。
《道連れ呪い》は自分の魔力全て――つまり命も――失う魔法だ。魔力を失くす魔法は、それくらいしかなかった。
このくそ広い世界が狭すぎたのか、あるいは広すぎて見つけられないのか。俺には分からない。
見つけたのは、痛みを消す薬草だった。フィアーナの望みに沿うために、これも探していた。
穏やかな最期だった。
視えた通りに。
そこに…俺の意思は、行動は、反映されていたのだろうか。
決まりきった道を、さも自分で切り開いたかのように、連れてこられただけなのではないかと…――思わざるを得ねえんだ。
だけどお前は言った。
「ありがと」
*
それでもあがく。
今しかねえんだ。
あるのは、今だけ。どの今も、自分が掴み取ったもの。俺は納得しにくいだけ…。
視えたことを変える――いや、変えるとかではない。ただ、助けるためにはどうすればいいのかと、ただただ考えてあがくだけだ。
変わるかどうかは、本当は気にする必要はねえはずなんだ。そう、思わせてくれ。
そう、思うためにも。
あがき続けて、どれかひとつでも、変われば。
俺は、俺の救いたい全てを救ってみせる。
「あなたの大事なものを、失くしていかないで」
そのために、すべてを救おうとしてるんだ。
すまねえ。
すまねえ、フィアーナ。
未来が視えても、それをどうすればいいか、分からねえ。
「じゃ、結局、未来が視えない人と同じだね。どうにか精一杯頑張っていくしかないね。
あなたは視えたことに立ち向かうから、まるで未来が決まっているようで、それに振り回されているようで、だから納得しにくいだけ。あるのは、今だけ。どの今も、自分がつかみとったもの。そうでしょ? 視えたものは、ただの手がかりだよ」
その”手がかり”を、どうやって覆せばいいのか。
あがいても変わらない経験が、無力感と虚しさばかりを募らせる。
「迷わないで。私はここにいる」
*
セル族というのは、魔女ルディが創造したもので、世界に数人存在する。予知の能力がある。この程度が、少しマニアックな奴が知っている”一般的な”知識だ。
「8人いる。予知の能力があるっていっても、自分で操作することはできねえ。ルディは盲目の魔女で、セル族よりも強い予知の力があった。あれと一緒だな、あの戦争の裏の物語として語られることがある、ヒューマンの姫、エリーゼと。
ともかくルディは、多分、寂しかっただけだ。予知と創造ばっかり得意なあいつは、はじまりの樹の下でセル族を創りだした。
そのひとりが俺だ。
大事なのはこっからなんだが、予知だかなんだか分からんが、もし…。…もしもだからな。俺に子供が出来たんなら、何かしら、変わった力が顕れる可能性がある。いいか悪いか分からん。…やめるんなら、今だぞ」
フィアーナは一度だけ、へえ、という表情をしたものの、あとは大して困った様子もない。
「うーん…」
しばらく考える。そして言った。
「魔力の強い人の子は魔力が強い傾向がある。エルフとミユの子は、精霊や魔法についてか、音の扱いについてか、能力があると思われる。すべての子供は、もしかしたら魔力が強いかも知れないし、全く魔法ができないかもしれないし、目が見えないかもしれないし、耳が聞こえないかもしれない。あなたが言ってるのって、そういう感じのことじゃないの?」
危機感を覚えていないのだろうと思った。現実的に考えられていないのだと。実感がないんだろう、当然だ。
「どうなるか分からねえ。いじめられるかもしれねえ。自分の力を持て余すかもしれねえ。望まない力だったと恨まれるかもしれねえ。生まれなければ良かったと、言われるかもしれねえぞ」
「…ルディに対して、そう思ったことがある、ってこと?」
全く思わなかったと言えば、嘘になる。だが。
「今は思ってねえよ」
フィアーナは頷いて、微笑んだ。
「あなたみたいな子が生まれるなら、大丈夫でしょ」
「あ? 俺みたいなのなんか、御免だぞ」
「そりゃあんた、父親になろうってんなら、免れないでしょうに」
「お前に似ればいいんだよ」
「あなたに似たほうがいい」
フィアーナは微笑んだ。
「なんにしてもね。不幸になんか、させないから」
そして目を合わせてまっすぐ問うた。
「そうでしょ?」
ああ、お前がそう言うのなら。俺を信じるというのなら。いいんだなと改めて問うたとしても、その答えは、俺の答えと同じ方向なのだろう。
俺が違うと言えばお前は引いていくだろう。俺がそうだと言えばお前はこのまま…。
「思い通りになんかならないよ、何もかも」
俺が逡巡した間に、フィアーナは言った。
そうだった。こいつは、あの戦も経験した奴だった。
元エルフのダークエルフだ、フィアーナは。『西』で起こったエルフとヒューマンの戦。あれに関わったエルフとヒューマンこそが、ダークエルフとダークヒューマンの起源だ。
とはいってもこいつはその頃まだ子供だった。ただただ巻き込まれただけだ――フィアーナにもそう言ったことがある。そしたらフィアーナは首を横に振った。私は私の意思であそこにいたのだと。何もわからない年齢ではなかったと。
「大体ね、まずは無事に産まれてから悩みましょうよ」
それもそうだ。先に出産という難所があるのだった。なんてことだ、失念するなんて。
「悪い。そうだな」
フィアーナが先に死ぬのだと視えたのは、エナが生まれた後だった。
*
恐らく病魔だった。
病気とは違う。それは呪いの一種、悪魔の一種だ。
俺は方法を探した。
『南』にまでも足を運んで。ディル族やドマール族との繋がりはこの時に始まった。
病魔。
そいつを取り除くということは、魔力ごと失わせるということだった。
医療で言うところの、切除する、ということらしい。 だが魔力はそう簡単に、必要な部分だけ切り取ることはできない。
《道連れ呪い》は自分の魔力全て――つまり命も――失う魔法だ。魔力を失くす魔法は、それくらいしかなかった。
このくそ広い世界が狭すぎたのか、あるいは広すぎて見つけられないのか。俺には分からない。
見つけたのは、痛みを消す薬草だった。フィアーナの望みに沿うために、これも探していた。
穏やかな最期だった。
視えた通りに。
そこに…俺の意思は、行動は、反映されていたのだろうか。
決まりきった道を、さも自分で切り開いたかのように、連れてこられただけなのではないかと…――思わざるを得ねえんだ。
だけどお前は言った。
「ありがと」
*
それでもあがく。
今しかねえんだ。
あるのは、今だけ。どの今も、自分が掴み取ったもの。俺は納得しにくいだけ…。
視えたことを変える――いや、変えるとかではない。ただ、助けるためにはどうすればいいのかと、ただただ考えてあがくだけだ。
変わるかどうかは、本当は気にする必要はねえはずなんだ。そう、思わせてくれ。
そう、思うためにも。
あがき続けて、どれかひとつでも、変われば。
俺は、俺の救いたい全てを救ってみせる。
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